2018年秋号
輝け!京大スピリット
ヨット部 主将
小塩浩人さん 工学部物理工学科 4回生
琵琶湖に出艇したヨット乗りたちを追うレスキューボートは上下に激しく揺れ、取材どころかしがみつくのがやっとだった。この日の風は秒速7メートル。強風で帆を風船のように大きく膨らませ、自然の力でヨットを疾走させる。「ほら、あそこ!『31471』って書いてあるヨットが見えますか」。レスキューボートから見守るスタッフが、主将・小塩浩人さんの操縦する2人乗りのヨットを指差した。素人ではすぐに流されるほどの強風を味方につけ、パートナーとともに水面ぎりぎりまでめいっぱい体を反る。コントロールされたヨットはしぶきをあげ、湖上に白い流線を描いた。
「あの姿勢、見た目以上にきついんですよ。最初は1分も続かなくて、すぐに音をあげてばかり」と小塩さん。小麦色の顔から、ひんぱんに白い歯がこぼれる。がっちりとした体格は、長年のセーリングによるものかと思いきや、始めたのは大学から。
「ごはんおごるよ!」。新歓でヨット部からかけられた、このことばがきっかけだった。当時は、ヨットのヨの字も知らない。それでも入部にいたったのは、部について熱弁する先輩の存在が大きかったという。「ヨットというより、〈ヨット部〉について熱く語ってくれました。4年間を捧げるなら、自分が所属する組織のことを語れる人になりたいと思ったんです」。勧められるままに意気揚々とヨットに乗ってみた。静止画のごとく、前には進まなかった。レースに参加するも、最下位ばかり。魅力がさっぱりわからなかった。
しかしある日、偶然にも好成績を残したことが転機に。「なんでいい順位がとれたんだろ?」。おのずと疑問が沸き起こった。「ヨットの結果にはかならず原因や理由があることがわかったんです。風や波の読み、ヨットのチューニング、相手との駆け引き、セーリングテクニック。さまざまな要素が絡みあい、結果がついてくることが」。
それからというもの、小塩さんは自身も認める「ヨット馬鹿」と化した。いけないとわかりつつも、授業中も頭はしばしば湖上にトリップ。「明日はセールの張り具合を強くしてみようかな。いや、やっぱり天候を考えると弱めたほうがいいかな」。気づいたらノートはヨットのことで真っ黒になった。高みをめざすその真摯な姿勢が認められ、部員からも一目置かれる存在に。2回生の夏にはレギュラーを掴んだ。
そして現在、主将として約70名もの部員を束ねる。めざすはインカレ総合入賞。過去に怪我の影響で実力が出し切れず、リベンジを誓った舞台だ。「私大の強豪に挑むには、設備の違いもあり、真っ向勝負ではなかなかむずかしい。ヨットは頭を使うスポーツですから、戦術面では絶対に負けないよう総力を結集しています。少なくとも、国立のトップはゆずれません」。節ぶしに力がこもり、一つの問いにも多くのことばがあふれた。小塩さんの姿は、知ってか知らでか、話に聞く「熱弁する先輩」と重なるように思われた。
>> 体育会ヨット部