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輝け!京大スピリット

2018年秋号

輝け!京大スピリット

『歌う』場所を求めた さきに

平成29年度 総長賞
藤井 駿さん 大学院工学研究科 修士課程2回生

耳に届いたのは、予想外の音色だった。ジャズ音楽で耳にする、渋く、太い音とは異なり、藤井駿さんのアルトサックスの音色は「純粋」、「透明」ということばがよく似合う。「楽譜を演奏するときは、いかに息をコントロールするかが大事。演奏の抑揚を音楽家は『歌う』と表現するのですが、どう歌うかにはこれまで培った経験が凝縮されているんですよ」。なるほど、心地よさげな演奏姿をみると、一般人にはわからない『歌う』感覚を藤井さんはすでに身につけているようだ。

それもそのはず。第18回大阪国際音楽コンクール、管楽器部門木管Age-U(大学・大学院の部)で第3位入賞を果たしたのだから。出場者のほとんどを音大生、芸大生が占め、海外からも多くの実力者が参加する。この大舞台で理系学生の入賞は快挙といえる。「好きになったらまっしぐら。大学に入る前は、こんなにのめりこむなんて思いもしませんでした」。

サックスとの出会いは中学時代。吹奏楽部の楽器体験でとりわけ大きく音が鳴ったから、という些細な理由だった。当時の練習量は人並み。「力量もチャランポランでした」。

そして、京都大学に入学。2回生の春に歯車は動き始める。
「東京音楽大学でサックスの演奏を学んだ経験のある新入生が京大の吹奏楽団に入ってきたんです。ぼくがこれまで演奏していたのは吹奏楽曲だけ。彼の演奏するクラシック音楽は未知の世界でした」。
学年では後輩だが、すぐに憧れの存在に。どうしたらそんなにうまくなれるのか。疑問に対する後輩の答えは「習うしかない」の一言。
そうとわかれば、行動は早い。次の日には高校時代の恩師を訪ねた。以降、サックス漬けの日々が始まることに。

高度な設備が整い、日常的に指導者がそばにいる音大生と比べると、藤井さんの置かれた環境はあまりに質素。
とくに頭を悩ませたのは、練習場所の確保。「本気で上達したいのなら毎日4~5時間の練習は欠かせません。サックスの音は大きい。迷惑にならない場所選びにいつも困っています」。旅人がその日の宿を探すように、毎日あせりに苛まれた。ときには鴨川沿いの河原やカラオケボックスで練習することもあった。

血のにじむような努力が強いられる環境でも、サックスへの情熱は絶えることはなかった。「『好きこそものの上手なれ』で、モチベーションに困ったことはありません。それは才能なのかも」。レッスンでは恩師から多くのダメ出しを受ける。それを辛抱強く受けとめ、練習を継続することで、いつのまにか誰もが認める賞を掴み取るまでにいたった。「サックスは、もはや体の一部のようなもの。毎日続けて吹かないと生活のリズムが乱れます。止まると死んじゃうマグロみたいに(笑)」。

大学院修了後は、楽器メーカーへの就職が決まった。藤井さんの専攻は、修了した人の多くが化学メーカーに就職する。通常とは違う選択に不安ながらも受けた面接だったが、藤井さんの経歴に興味を持った面接官からの質問は音楽のことばかり。毎日考え続けた音楽への思いならばこっちのもの。情熱が扉を開いた。藤井さんの『歌』は、まだまだ続きそうだ。

鴨川デルタにかかる河合橋の下が練習場所。橋の下は音が反響するので、気持ちよく吹けるという

藤井さんの演奏を試聴できます

曲名:パルティータ アルマンド
作曲:J.S.バッハ
演奏:藤井駿

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