2018年春号
輝け!京大スピリット「有朋自遠方来」
Ei(イ)さん
アジア・アフリカ地域研究研究科 東南アジア地域研究専攻 博士一貫課程5回生
ミャンマーの中央部を南北に走るバゴー山地で、政府主導のもとに大規模な木材のプランテーション開発がすすめられている。しかし、そこで働く村人は、労働賃金は得られても、木材を売ることはできない。いっぽう、村人所有の焼畑で栽培するNTFP(Non-Timber Forest Products)ならば、売って得た利益は村人の収入になる。NTFPとは、森林地域で産出される、樹木、植物、動物など、木材以外のさまざまな森林産物のこと。イさんは、2012年から継続的にバゴー山地の村に足を運び、NTFPの収穫量と村人の生計との関係を研究している。
1回の調査で3か月ほど滞在し、植生調査や聞き取り調査を重ねるという。「ミャンマーの大学の授業では、数人ずつのグループで森に入りましたが、いまは一人で森を歩きます」。獣に出くわすのでは、と心配ばかりする私をよそに、イさんは楽しげにつづける。「ごまかされたりだまされたりする都会よりもよっぽど安全ですよ。村人たちは正直で誠実で親切」。
調査地のカレン族はカレン諸語をつかうが、イさんとは公用語のビルマ語で会話する。イさんには、ビルマ語をつかいなれない村人といちはやく打ち解ける秘訣がある。「村人には、敬語をあえてつかわず、初対面でもフランクに話しかけるようにしています」。
ミャンマーの大学を卒業し、環境保全林業省森林局で生物多様性の保全や劣化した森林の回復などに携わった。「当時の私は、木材生産こそ経済価値があると信じていましたが、留学後にバゴー山地を調査するなかで、そうではないと気づいたんです。彼らは木材だけでなく、藪に生える灌木や薬草などを日常生活に役だてる方法をすでに実践しています。森をよく知る彼らのくらしは、生態系や環境の保全に適しています」。
日本に来て6年。流暢な日本語で応じるイさんだが、当初は日本語もままならず、不安だったという。日本語で積極的に話しかけるように努め、コンビニでのアルバイトも始めた。「遠い国での一人暮らしは大きな自信になりました」。困難に直面しても、ひるまず立ち向かえるようになったという。
「飲み会」は日本で学んだ交流術のひとつ。ミャンマーにはない慣習だという。「ともにお酒を飲む時間を重ねるほど、仲よくなれる。3月で京都大学を卒業し、母国の森林局にもどります。のこりわずかですが、研究室の仲間とすごす時間を楽しみたい」。異国の文化を受け入れ、心を開いて関係を築こうとするイさんなら、どんな場所でもしっかりと根をはって、彼女らしい花を咲かせるにちがいない。