2018年春号
輝け!京大スピリット
落語研究会 部長(平成29年度)
児藤 鑑さん
理学部3回生
京大落語研究会OB、笑福亭たまさんの軽快な語り口で会場が爆笑の渦に包まれるなか、「楠木亭頂点我無」こと児藤鑑さんは手に汗を握り、舞台袖から演目を見つめていた。むりもない。1968年の創部以来つづく「京大寄席」の記念すべき100回めの興行で、部長としてトリを飾ることになったのだから。
「緊張するタイプなんですよ」。えびすさまのような笑顔を浮かべながら寄席をふりかえる児藤さん。その表情を見ているだけで、なぜかクスっと笑ってしまいそうになる。当日の出来はどうだったのか。「上方落語の『土橋万歳』を演じて、もう大爆笑の嵐でした」。発言するやいなや、周囲の部員から矢のようなツッコミが入る。「どこがや! 途中でとばして同じセリフを2回言うたやん!」。どうやら、あまりうまくはいかなかったらしい。しかし、2日間にわたり開催した寄席はのべ750人を集客。木戸銭100円とはいえ、学生の寄席でこの記録は異例だろう。「満員の会場で噺ができたことは財産です。落語の魅力が伝わったならうれしい」。落語の世界にどっぷり浸かる児藤さんだが、大学入学時はまったく興味がなかったという。
「友だち探しをかねて、落語好きの知人についていったのがきっかけでした」。ところが、いっしょに入った知人は1週間後に退部。あらたにコミュニティを探す気力もなく、気乗りしないまま落語に挑戦してみることに。「正直いって、1年間は惰性で続けていましたが、2回生のはじめに披露した寄席で周囲から褒められたんです。『うまくなったんじゃないか!?』と勘違いして、落語にのめりこみました」。
それからは、依頼があればどこでも余興を催し、笑いを届けに奔走した。神社の秋祭り、政党の集会、パチンコ店建設反対運動寄席など、会場は多岐にわたる。「事情を聴かずに舞台にあがると、日本語のわからない外国人観光客ばかりだったこともあります」。会場で巻き起こる笑いをモチベーションに、落語の研究に励んだ。プロの寄席に足しげく通い、その挙動を見たり、歌舞伎や狂言などの伝統芸能の公演にもすすんで足を運んだりもした。
「落語はほんとうにむずかしい。でも、おもしろいんです。ネタは長年にわたり披露されているのに、落語ファンは同じネタをなんど聴いてもおもしろいと感じる。演じる人の個性や人生が落語ににじみ出るからです。いつかお客さんに『祇園花月より京大落研にいこう』と言わせてみたい」。真剣に語るときは、えびす顔の細い目がパッと開き、精悍な顔になる。周囲の部員に見守られるなか、オチをつけるのも忘れなかった。「欲をいえば、テニサーくらい女の子が入ってほしい」。せまい部室のなかがどっとわいた。