2018年春号
京都大学をささえる人びと
高橋秀典さん
総合技術部次長(兼防災研究所技術室長)
京都大学の研究・教育活動をささえる教室系技術職員。京都大学総合技術部はその技術職員の人材育成と業務にまつわるさまざまな課題解決のための全学組織として1991年に設置されたが、部局をまたがるその特殊性から、大学の組織図にもその名称はない。そんな裏方業務を実務責任者として束ねる苦労とやりがいを、次長職を務める高橋秀典さんにたずねた
インタビューの場として通された部屋には大きなスクリーンと見なれない機材。「あしたは防災研究所の技術職員の会議です。附属施設5か所をインターネット会議でつなぐんです」と話す高橋さんは、防災研究所の技術室長でもある。
発足当初から、総合技術部の部長は工学研究科長が兼務してきた。「組織のうえでは、部長がすべての技術職員を統括する立場にありますが、個々の課題や要望を多忙な部長が吸い上げることはむずかしかったのです」。そこで2016年度から、会議の運営や人事の実務担当者を、技術職員が担う次長職を設置することに。その初代次長に選ばれたのが高橋さんだ。
京都大学に着任前は、東京の出版社で編集者として働いていた。「仕事は充実していましたが、いつかは学生時代を過ごした京都に戻りたいと考えていました」。そんな折、防災研究所で技術室長を公募することを偶然に知った。土木技術者むけの雑誌などをつくるなかで学んだ経験を活かせると感じ、一念発起。2011年1月、室長に着任後は、出版社時代に取材をとおして見聞きした多くの企業の経営論や組織論、マネジメントのノウハウを応用し、防災研究所技術室の業務の改善をすすめた。次長への抜擢はその実績を評価されてのことだった。
北は北海道研究林、南は宮崎県の幸島観察所や鹿児島県の桜島火山観測所まで、京都大学の技術職員は日本各地の附置施設で活躍中(図1)。遠隔地では職員の数が少なく、現場を長く離れられないため、打ち合わせのために高橋さんが出向くこともある。「メールや電話でも連絡はとれますが、顔を合わせて話すことで、課題の解決につながることもあります。かつては47都道府県を取材で飛びまわったことが自慢だったくらい、遠距離移動は慣れたものですが、京都大学でも同じようなことをするとは思いませんでしたね」。
総合技術部内の組織は6つの専門技術群(ページ下に掲載)に分けられているが、技術職員の業務の幅広さは、京都大学ならではだという。「実験機器の管理から実験用マウスの飼育まで、同じ技術職員とはいえ『えっ、そんなことをしているの!』と、たがいに驚くほど、まったく異なる業務をしています」。
「約270名の教室系技術職員をとりまとめる責任は重いですが、教員や事務の方がたと協力していちから組織を再構築するのは、大きなやりがいです」。なかでも、技術職員の業務実態に即した勤務評定基準を導入したことは大きな成果だと自負する。「技術職員の多岐にわたる業務を、それぞれの職場の実情を反映した評価軸できちんと評価することで、一人ひとりのやりがいにつながると期待しています」。
総合研修や専門技術群研修などを通じた職員間の交流をさらに進め、人材活用につなげることがこんごの目標だ。「ある技術をもった人材が必要になったときに、その部局で新規に採用するよりも、ほかの部局から派遣するほうが効率がよい可能性がある。そのマッチングをうまく調整するには、マネジメント力のある人材が欠かせない。そうした能力が身に着くしくみを整えることも、私の役目です」。そう、マネジメント力もまた、京都大学をささえる技術の一つなのだ。
工作機械の設計・製作・管理、粒子加速器・望遠鏡・船舶の運転など
測定機器の設計開発、研究用システムの構築、遠隔地施設の維持管理など
核磁気共鳴装置・電子顕微鏡の保守管理と測定、学生実験の指導など
実験用動植物の飼育・栽培、フィールドの管理、組織学的解析など
粒子加速器・原子炉の管理など
スーパーコンピュータの管理、ネットワーク環境の企画・運用・管理など
たかはし・ひでのり
1959年に福島県に生まれる。京都大学農学部農業工学科卒業後、福島県庁、日経BP社をへて、2011年に防災研究所技術室長に。2016年から現職も兼務。
※掲載記事についてのお詫び
2018年3月29日~5月15日および10月15日~10月25日の期間において、高橋秀典氏の略歴に誤りがありました。