2017年秋号
輝け!京大スピリット
陶芸部「天山窯」
増田和俊さん 総合人間学部2回生
植村優貴さん 経済学部3回生
扉を開けると、にぎやかな工房の様相だった。部員たちが談笑しながら、粘土を両手でつかみ、指圧の練習のごとく揉みこんでいる。指先の感覚で、不純物が入っていないかをチェックする。焼くまえに割れたり、成形に失敗した器を泥の山にもどす恒例の作業だ。
「粘土選びから、成形、乾燥、素焼き、色や模様をつける釉薬かけ、本焼きまで、最短でも2週間はかかります」。そう語るのは、部の雰囲気に惹かれて入部したという増田和俊さん。総勢40名の部員たちの作品は、器にかぎらず、アクセサリーやオブジェなど多彩。年にいちどの展覧会や京都大学の11月祭では陶器の販売もする。部室は24時間開放。「部会の日以外は、それぞれが好きな時間に作品をつくりにやってくる。展覧会の時期は、いつもだれかがいる状態です」。増田さんも常連の一人。
「陶芸には正解がない。自分ではおおざっぱだと思った作品でも、評価されることがある。飲食店の器や陶芸市の作品からアイデアをもらい、思いどおりにできた器で食事ができるのもいい」。先輩に教えてもらいながら、はじめてつくった茶碗は、いまもふだんづかいのお気に入りだ。
「陶芸はものづくりをしたい人に向いている」と植村優貴さんはその魅力を語る。「繊細さがかならずしも求められない陶芸は未経験者でもはじめやすかったんです。手先が器用でなくとも、一見いびつでも、『それはそれで味』と認めてもらえる」とはにかむ。青色が好きな植村さんは、作陶にも青系の釉薬をよく使用するという。同じ釉薬をつかっても、窯から出すまではどんな色になるのかわからない。窯内の酸素量など、多様な条件が焼きあがりの色あいを左右する。「そこが魅力です。想像していた仕上がりと違うことが楽しい。同じ青でも、ほかの釉薬を混ぜあわせれば、どんどんと新しい色が生まれる」。
作陶のようすを見せてもらった。柔らかな雰囲気をまとう二人だが、土と向きあった瞬間、まなざしが変わる。「先輩たちから教えてもらった技術を後輩にしっかりと伝えたい」。職人の横顔で土を操りながら増田さんはいう。指導者はいない。約20年かけて練りあげてきた先輩の智恵が教科書だ。
器の厚みを薄く均一に仕上げるには、経験と努力が必要。「応用力を発揮するには、土台をきっちりと積むべし」。そう職場で言われた私には、創作の自由を体現する彼らの背景にしっかりと積まれた土台が垣間見えた。そう思う間に、増田さんの手の中にははやくも作品が具象化しつつあった。
>> 京都大学陶芸部 天山窯