2017年春号
「教養・共通科目」潜入レポート 外国語科目群(英語科目)
金丸敏幸 准教授
国際高等教育院附属国際学術言語教育センター
京都大学の教養・共通教育の改革のもとで、とくに大きく変化したのは英語教育。高等学校での英語の授業と根本的に違うのは、「英語を学ぶ」のではなく、「英語で学ぶ」ということ。大学での英語学習の魅力を体感してみた
学術研究の世界では、日常的に英語があふれている。論文を読んだりレポートを書いたり、学会での研究発表や質疑応答も「英語のみで」と制約されることは少なくない。現代の学術研究は、国際的なつながりを断っては成りたたない。英語は世界とつながる重要なツールであることは確かだが、英語を話せるからといって優位であるとはかぎらない。肝心なのは「伝えたい」という熱意と内容だ。苦手だからと拒絶せず、思いきって飛び込んでみれば、活躍の場が新たに拡がるかもしれない。
1クラス40人 全74クラス
1クラス20人 全148クラス
「学術目的の英語」の入口です。「ライティング―リスニング」クラスの定員は全クラス20人ほどだから、学生との距離がとても近い。彼らの反応がよくわかるし、つまずきやすいポイントもすぐ気づく。レポートへのフィードバックもていねいに対応できます。
ここがポイント! ライティングーリスニング
前期・後期のどちらかで、ネイティブ・スピーカーによるオール・イングリッシュの授業を受講。90分間、新鮮な英語のシャワーを浴び続け、苦手意識をさっぱりと洗い流す。
ネイティブ・スピーカーの先生の授業では、「学術研究の場で役だつ英語、つかえる英語」を重視して、「話す・書く」をくり返します。英語では伝えにくい文章の構造などの基礎知識は、日本人教員の授業で、ていねいに指導します。
授業外学習が中心。京都大学が独自に開発した語学学習支援システム「GORILLA」で毎週一つの課題に取り組む。全一三回のユニットのうち八回以上を完了することが単位認定の条件。毎月一回、授業中にリスニングテストも実施。
課題書は『京大・学術語彙データベース 基本英単語1110』。京都大学の研究者が推薦する学術誌から選んだ学術論文に頻出する単語をデータベース化して抽出した単語集。授業開始と同時にテスト用紙が配られるので、大半の学生は始業の寸前まで単語帳を手に勉強している。
毎週の課題を「しんどい」と感じる学生もいるでしょう。でも、思い出してみてください。大学受験のときは自分を律して、毎日の学習を習慣づけていたはずです。だからこそ身についた力がある。ところが、入学したとたんに時間のつかい方が変わってしまう。英語は、つかわなければすぐに錆びます。せっかく覚えた英単語も、どんどん忘れてしまう。もったいないですよね。
TOEFLは「学術目的の英語」の力を客観的に測る指標です。英語科目を受講する一回生はみな、年に二回受験します。結果に一喜一憂せず、自分に欠けている力を知る機会ととらえて、挑戦してほしいですね。
「英語を学ぶ」と「英語で学ぶ」とはまったくべつもの。E科目がめざすのは、英語の能力「だけ」を高めることではありません。専門分野の研究内容を理解したり、はば広い教養を身につけたりすることが主眼で、英語はそのツールにすぎないのです。研究の世界で通用するリスニング力を身につけようと思ったら、一回生の授業だけでは足りません。翌年はE科目を積極的に受講して、せっかくの英語力が錆びつかないよう、磨きつづけてほしいですね。
授業に潜入!学生目線で授業を体験しました
英語ライティング―リスニングB
金丸敏幸 准教授 (左)
国際高等教育院附属国際学術言語教育センター
John Rylander 特定講師 (右)
国際高等教育院附属国際学術言語教育センター
1回生が受講する「ライティング―リスニングB」は148クラスもあるが、到達目標や評価基準は全クラス統一。「めざすべき到達地点は共有していますが、どの道をどのように登るかは、教員それぞれの考え方に委ねられています」。日本語で指導する金丸敏幸准教授と、ネイティブ・スピーカーのJohn Rylander 特定講師が担当するそれぞれのクラスを受講してみた
テスト問題は担当教員が作成。学生たちの顔ぶれや習熟度を考慮するだけでなく、回答方法にも個性があるようだ。
留学生も受講するので、日本語が母国語でない学生にも配慮し、「英語←→日本語」以外のバリエーションも盛り込む。語彙力をつけるために類義語の問題を重視。
回答はなんと、各自の私物のスマートフォンで。前方のスクリーンに投影されたQRコードを読みとると、専用のウェブページにつながるしくみ。合図とともに、全学生がスマートフォンをじっと見つめるという構図に驚くが、「あるものは活用する」のがライランダー講師流。「カンニングはしない」という信頼関係のもとに、学生たちは慣れた手つきで指を動かし、送信ボタンを押す。
「考える」ことは得意だけれど、「話す」のはちょっと苦手……。そんな学生は少なくない。学術研究の世界では、みずからの考えを披露する発表の場がつきもの。
テーマは要約(summary)。学生それぞれに、洋書の一部を、英文で要約する課題が与えられる。要約文を提出して終わり、ではない。同じページを要約した学生どうしでグループをつくり、クラスメイトに要約内容とポイントを紹介するのが、この課題の本題。
プレゼンが待っているとは知らなかった学生たちは、「どうしよう」と不安げだが、しだいにようすが変わってくる。発表スライドを準備する人、議論をとりまとめる人、新たな視点で話題を拡げる人など、おのずと役割がきまり、議論が白熱する。
30分の準備時間をへて、いざ発表。初回とあって発表は日本語で実施。ユーモアをまじえたキャッチコピーで聴衆をひきつけるグループもあれば、簡潔さを重視するグループもあり、学生たちの個性が光る。金丸准教授は、発表ごとにていねいにコメントする。「こんな方法があるのかと、若い彼らの発想力に驚かされることは多いですね。受けとめる私も、柔軟性と瞬発力を磨かなければ」。
重視するのは、「学術世界で通用する技術」。発表のスキルや、文章のポイントをつかむ力は、日本語でのレポート作成にも応用できる。「大学での学びとはこういうものだということを、一回生のうちに体感してほしいのです」。
ライティングクラスの最終目標は、エッセイや卒論の草案など、一つのテーマでまとまった分量の英文を書きあげる力を身につけること。この日の課題は、文章のテーマとなる問題提起のしかた。
「SNS」、「環境問題」、「スマートフォン」の三つから興味のあるトピックを選び、グループに分かれる。そのトピックをどんな視点で切り取るかというアイデアを練ることが、この授業のねらい。スマートフォンやノートパソコンを活用して情報を集め、アイデアを紡ぎだす。学生どうしは日本語での会話が許されるが、先生からの指示や先生への質問はすべて英語。英語の苦手な学生が遅れをとらないよう、留学経験者がフォローしたり、英語での質問役をかってでたり、チームワークはばっちり。フランクな雰囲気に包まれた教室で、英語力の差を気にせずに、全員がいきいきと発言しているのが印象的だ。
15分のブレインストーミング後は、教室前方の巨大なホワイトボードを埋め尽くすほどにアイデアが書き込まれる。先生のツッコミに、教室が笑いにつつまれる場面も。先生からさらに新たな課題が与えられ、教室はまた白熱する。
かなまる・としゆき
1977年に大分市に生まれる。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。京都大学大学院人間・環境学研究科外国語教育論講座助教をへて、2014年から現職。
John Rylander
オーガスターナ大学歴史学部卒業。ハワイ大学マノア校で応用言語学の修士号を取得。現在、応用言語学の博士論文の審査中。2014年10月から現職。