2017年春号
輝け!京大スピリット
プロボクサー
小木曽友輔さん(工学部 4回生)
とあるビルの地階、ガラス扉を押し開けると耳に飛びこんでくる、サンドバッグを揺らす重く湿った音に圧倒される。スポーツジムには場違いのスーツ姿にそそがれる視線に慣れたころ、小木曽さんは現れた。「顔にパンチを受けてしまって……」と照れ笑い。1週間まえにプロ2戦めを勝利で飾ったばかり。左目の充血が痛々しい。パンチに歪む顔面を想像し、みぞおちあたりがゾワッとする。「不思議なことに、殴られるのは怖くありません。やらないとやられるだけ」。
2015年11月のプロデビューから半年後、4月の初戦でみごと勝利。「京大生」という肩書きが注目され、取材を受ける機会も増えた。「ボクシングになじみのない人からは、『京大生なのにすごいね』と実力以上に評価されるし、玄人からは、『しょせんは京大生』とあしらわれる。そんな空気をはね返して、『京大生だってできるんだ』と、結果で反論したい」。
中学・高校時代はサッカーに熱中した。大学では新たな刺激をもとめてラクロス部に入部するも、ひざの前十字靭帯を2回も損傷し、断念した。「さすがに心が折れました。目標を失った喪失感と悔しさで、3か月ほどは、心ここにあらずの日々でした」。このまま終わるわけにはいかないと悩む彼を奮い立たせたのは、大学から始めたボクシングでプロデビューした高校時代の友人の存在だった。「これだ!」と、なかばヤケクソでボクシングの世界に飛びこんだ。 「3分なんて短いでしょ」とたかをくくっていたが、はじめてリングに立ち、「動きつづける3分」の過酷さを痛感。負けず嫌いの性分に火がついた。「試合中はトレーナーの指示を聞いて冷静に戦略をたてることがだいじ。頭ではそうわかっていても、パンチを受けると焦って、周りが見えなくなる。ゴングが鳴るまでの記憶が飛んでいることもあります」。
強いボクサーには、筋力や体力などのフィジカルはもちろん、動体視力や勝負勘など、天性の感覚も欠かせない。「それでも、努力が勝つと信じています。勉強も同じ。地頭で勝負するのではなく、自分の専門領域を深く掘り下げて、そこではだれにも負けないようにする。平凡なりに、地道に努力を重ねて、栄光をつかみたい」。なんど失敗してもあきらめずに立ちあがる「不屈の精神」。文字にすればあっけないが、ボクシングはそれを体現するスポーツ。そんな生々しい世界に足を踏み入れた小木曽さんは、どんな未来を勝ち取るのだろうか。