2014年3月18日
矢野浩之 生存圏研究所教授と日本製紙株式会社は、紙を透明にする技術の開発に成功しました。この技術は、プリンテッドエレクトロニクスや有機EL照明、有機薄膜太陽電池などのフレキシブルエレクトロニクス用透明基材の製造に利用されることが期待されます。
この研究成果は、2014年3月25日のNanocelluloseSymposium2014/第250回生存圏シンポジウム「セルロースナノファイバー ~日本には資源も知恵もある~」(京都テルサ/京都府京都市)で発表されました。
本研究で開発したこの技術を応用して、紙を化学修飾、樹脂と複合化させて透明化し、大阪大学産業科学研究所、能木雅也准教授の協力のもと、その透明紙上に導電性物質を塗布することで、導電性透明紙を作成することに成功しました。
このことからこの技術が、有機EL照明、有機薄膜太陽電池などに用いられるフレキシブル透明基材(透明電極)に利用できるという可能性を見出しました。
概要
液晶ディスプレイに代表される画像表示装置や有機EL照明等には、従来ガラス基板が用いられてきました。しかし、近年、これらのデバイスは薄型、軽量化、大画面化、形状の自由度、曲面表示という要求から、重くて割れやすいガラス基板に比べて、一般に軽量で割れにくい高透明高分子フィルム基板への検討が行われてきていますが、この高透明高分子フィルム基板は、ガスや水蒸気を透過しやすく、線熱膨張係数が大きいという欠点があります。
そこで、幅20~50nmの高弾性・低熱膨張セルロースナノファイバーを透明なプラスチックと複合化させることで、透明性を保ちつつプラスチックに低線熱膨張性を付与することが検討されてきましたが、セルロースナノファイバーは、数%程度という低濃度でしか取り扱うことが難しく、機械的解繊による製造ではさまざまな要因によりコスト高になること、また性能としては、吸湿性の問題や、疎水性である樹脂との相溶性などの課題がありました。
本研究グループは、製紙用パルプがセルロースナノファイバーの束であることに着目し、そこに化学修飾を行うことでパルプを構成しているセルロースナノファイバー間の結束構造をほぐし、その間に樹脂を浸透させることによって、パルプの内部深くまで樹脂を浸透させると、透明なパルプ繊維複合樹脂材料が得られることを見出しました。これにより、透明低熱膨張材料の生産性が飛躍的に高まると期待されます。さらに、化学修飾によって、吸湿性や樹脂との相溶性の改善にもつながると考えられます。
実際に製紙用パルプを化学変性後にシート化し樹脂と複合化したシートは、セルロースナノファイバーを複合化した透明シートとほぼ同等の透明性と、低線熱膨張率が得られることを確認しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/adom.201300444
Hiroyuki Yano, Shouzou Sasaki, Md. Iftekhar Shams, Kentaro Abe and Takeshi Date
"Wood Pulp-Based Optically Transparent Film: A Paradigm from Nanofibers to Nanostructured Fibers"
Advanced Optical Materials Volume 2, Issue 3, pp. 231–234, March 2014
掲載情報
- 京都新聞(4月26日 9面)、産経新聞(3月19日 30面)、中日新聞(3月19日 3面)および日刊工業新聞(3月19日 29面)に掲載されました。