2013年5月28日
川本助教
川本竜彦 理学研究科附属地球熱学研究施設助教、芳川雅子 同教務補佐員、熊谷仁孝 理学研究科大学院生(現在、北村国際特許事務所弁理士)、小林哲夫 鹿児島大学理工学研究科教授、奥野充 福岡大学理学部地球圏科学科教授、ハナ・ミラブエノ フィリピン地震火山研究所研究員(現在、ニュージーランド・クライストチャーチ市議会職員)らの研究グループは、沈み込むプレートから海水がマントルに加わる現象を発見し、新しい仮説を提案しました。
本研究成果は、5月28日(米国東部時間)の米国科学アカデミー紀要の電子版で公開されました。
概要
日本列島の下には、日本海溝から太平洋プレートが、南海トラフからはフィリピン海プレートが沈み込んでいます。今回の報告では、天然のマントルの岩石を観察し、沈み込むプレートがマントルに海水を運んでいると提案しました(図)。
図:提案する仮説
海洋プレートは海溝付近で海水を取り込み、沈み込むとマントルに海水を出す。さらに深く沈み込むと海洋プレートからマントルに加わる流体は超臨界流体となるが、その塩濃度はまだ推定されていない。
1991年に噴火したフィリピンのピナツボ火山の下には、マニラ海溝からユーラシアプレートの一部である南シナ海のプレートが沈み込んでいます。噴火の際にマントルを作る岩石の破片が引っ掛けられて地表に出てくることがあり、マントル捕獲岩と呼びます。小林教授は、奥野教授とハナ研究員とともに、噴火直後のピナツボ火山で、大人のこぶし大のマントル捕獲岩を採集していました。その後、本学のグループがその捕獲岩を薄くして顕微鏡で観察すると、鉱物中に0.03ミリメートル程度の流体の粒がたくさん入っているのを見つけ、二酸化炭素を含んだ塩水だとわかりました(写真)。さらに、顕微鏡で観察しながらこの流体包有物の温度を下げることで、塩水から氷が結晶化する温度を測定しました。純水ならば0度で凍るはずですが、この塩水はマイナス3度で凍りました。塩濃度に換算すると約5重量%です。海水の平均塩濃度は3.5重量%なので、海水よりも少し塩辛いことになります。
写真:マントル捕獲岩中の流体包有物の顕微鏡写真
流体包有物は、炭酸塩鉱物と塩水と水蒸気から構成される。大きさは0.03ミリメートル。この流体包有物を冷やして氷が凍ったり溶けたりする様子を顕微鏡を使って観察する作業は、辛抱強さを要求する。
これまでプレートからは、浅い所では水が、深い所では水にマグマ成分を溶かしこんだ超臨界流体が出てマントルに加わると考えられていましたが、今回の発見は、それらには海水と同じ程度か、もう少し多い濃度の塩が含まれていることがわかりました。プレートは沈み込む前に、海溝の近くのアウターライズという場所で割れ目に沿って海水がプレートと反応し、塩水を持ったまま沈み込みます。深く沈み込むにしたがい、高温高圧条件になり、その海水をマントルに出すと提案します(図)。近畿地方には、兵庫県の有馬温泉や宝塚温泉、和歌山県の白浜温泉などに、炭酸ガスを含んで塩辛い高温の温泉があることが知られていましたが、温泉水の特徴は今回発見した海洋プレートからの塩水の特徴と一致し、海洋プレートからマントルを通って上がってきた流体と考えられます。このように、海洋プレートからの流体が塩水だとすると、塩水は純水と異なり、金属イオンをよく溶かすなど、マントルへの金属元素の移動に影響を与えます。日本列島のような沈み込み帯では、地震、温泉、火山などの地学現象がありますが、それらは海洋プレートから出る水によって引き起こされています。海洋プレートが水を大陸プレートの下に運ぶためには、まず海洋プレートが水を含んでいないといけませんが、その水は海水です。つまり、海があることで、地震や温泉や火山があることになります。
本研究成果は、主に、以下の支援によって行われました。
- 日本学術振興会科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究「スラブ流体の微量成分元素を高温高圧蛍光X線でその場分析する」
- 日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究B「沈み込み帯の流体学:海洋-スラブ-マントル系での塩水の移動と化学組成」
- 日本学術振興会科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究「超臨界流体は沈み込むスラブから難溶性元素を運べるか?」
- 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「地殻流体:その実態と沈み込み変動への役割」
- 日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究C「スラブ由来流体による上部マントルの組成変化:ピナツボかんらん岩捕獲岩からの制約」
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1302040110
Kawamoto T., Yoshikawa M., Kumagai Y., Mirabueno M. H. T., Okuno M., Kobayashi T.
Mantle wedge infiltrated with saline fluids from dehydration and decarbonation of subducting slab.
Proceedings of the National Academy of Sciences, U. S. A.
- 朝日新聞(5月28日 38面)、京都新聞(5月28日 28面)、産経新聞(5月30日 27面)、中日新聞(5月28日 30面)、日刊工業新聞(5月28日 29面)、日本経済新聞(6月4日 14面)および読売新聞(5月28日 36面)に掲載されました。