2013年4月10日
人の病気はさまざまな原因で引き起こされますが、一つの原因として免疫細胞の過剰活性化があります。免疫細胞の活性化は、いわゆる自己免疫疾患で典型的に見られますが、その他にも免疫炎症を惹き起こすことで多種多様な病気の基盤をなしています。免疫炎症を惹起する活性化免疫細胞の中にTh1と呼ばれる細胞があり、この細胞はインターロイキン-12(IL-12)という物質で分化が促進され、インターフェロン-γ(IFN-γ)を産生して炎症を起こします。近年ゲノム解析で多発性硬化症やクロン病などの免疫疾患に関係する遺伝子の同定が進んでいますが、その中にはTh1に関係するIL-12やIFN-γの関連遺伝子が多数見られます。これらに加えて、ゲノム解析で危険因子として同定されたのが、プロスタグランジンE2(PGE2)の受容体であるEP4です。しかし、EP4がどのようにして免疫反応の活性化に結びつくかの分子機構は不明でした。今回の論文は、この間の関係を明らかにしたものです。見いだされた所見は、PGE2がEP4受容体に働くことにより、IL-12の受容体とIFN-γの受容体の誘導して受容体数を増加させ、IL-12とIFN-γのシグナルを増幅することにより、Th1細胞の分化を促進し、この活性化免疫細胞の数を増して免疫炎症を促進していることを明らかにしました。実際に、免疫細胞でEP4受容体を欠損させたマウスでは接触性皮膚炎やクロン病モデルである腸炎の抑制が見られました。PGE2は急性炎症を惹き起こすメディエーターとして知られており、この結果は、急性炎症が免疫炎症に転換するメカニズムを明らかにし、EP4受容体を阻害する薬物の免疫病治療薬としての可能性を示唆するものです。
本研究成果は日本時間4月10日に「Nature communications」誌に掲載されました。
左はPGE2がEP4に働いてIL-12受容体やIFN-γ受容体を誘導する分子機構を、右は、今回明らかになったPGE2/EP4経路を免疫病で危険因子とされている遺伝子との関係を示す。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms2684
Yao Chengcan, Hirata Takako, Soontrapa Kitipong, Ma Xiaojun, Takemori Hiroshi, Narumiya Shuh.
Prostaglandin E2 promotes Th1 differentiation via synergistic amplification of IL-12 signalling by cAMP and PI3-kinase.
Nature Communications 4, Article number: 1685, 2013/04/09/online
- 京都新聞(4月10日 25面)に掲載されました。