2012年10月30日
川本助教
このたび、川本竜彦 理学研究科附属地球熱学研究施設助教、神崎正美 岡山大学教授、三部賢治 東京大学助教、松影香子 愛媛大学G-COE准教授、小野重明 独立行政法人海洋研究開発機構主任研究員らの研究グループは、プレートの沈み込み帯のマグマ発生メカニズムに関して、新しい仮説を提案しました。
本研究成果は、10月29日(米国東部時間)の米国科学アカデミー紀要の電子版で公開されました。
概要
日本列島の下には、太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいます。プレートには水が含まれていて、沈み込みながら温度圧力が上がり、徐々に水を放出します。その水は、海溝の近くでは地震を起こし、有馬温泉のような湧き水として地表にもどります。さらに深く沈むと、沈み込むプレートから「水に富むもの」がでて、マグマ発生の引き金になると考えられていました。この「水に富むもの」が水で、それが加わることによってマントルが溶けてマグマが発生するのか(図A説)、それとも沈み込むプレート自身が溶けてマグマになるのか(図B説)は、長い間議論されてきました。特に、日本列島では水説(図A)が、アメリカ合衆国ではマグマ説(図B)が主に信じられてきました。
図A(上)、図B(下)
今回、本研究グループは、兵庫県にあるSPring-8の放射光X線によって、地球深部でのマグマと水の溶け合う条件を決定しました。その結果、深さ80kmよりも深いところでは、沈み込むプレートからマグマと水の中間的な性質を持つ超臨界流体が作られ、マントルに加わると提案しました。そして、この超臨界流体はマントル中を上昇する途中で、再び水とマグマに分かれ、分かれた水はマントルを溶かして新たにマグマを作ります。そのため、従来の説では、沈み込み帯のマグマには、プレートが溶けたマグマと、水溶性成分に富むマグマが観察され、どちらを重視するかでプレートからマグマが来るのか、水が来るのかの論争になっていました。
今回提案された新しいモデル(図C説)は、その中間の性質を持つ超臨界流体がプレートからマントルに来て、マントル内で分かれると提案しており、日本列島や合衆国西海岸のようなプレートの沈み込み帯での火山のできかたの理解を一新させます。
図C
本研究成果は、主に、以下の支援によって行われました。
- 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B「沈み込み帯の流体学:流体とマグマの間の元素分配」、挑戦的萌芽研究「スラブ流体の微量成分元素を高温高圧蛍光X線でその場分析する」、基盤研究B「沈み込み帯の流体学:海洋-スラブ-マントル系での塩水の移動と化学組成」
- 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「地殻流体:その実態と沈み込み変動への役割」
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1207687109
Kawamoto Tatsuhiko, Kanzaki Masami, Mibe Kenji, Matsukage Kyoko N., Ono Shigeaki. Separation of supercritical slab-fluids to form aqueous fluid and melt components in subduction zone magmatism. Proceedings of the National Academy of Sciences. October 29, 2012. doi: 10.1073/pnas.1207687109
- 京都新聞(10月30日 29面)、日本経済新聞(10月30日 16面)に掲載されました。