2012年5月25日
佐藤拓哉 白眉センター特定助教、徳地直子 フィールド科学教育研究センター准教授および渡辺勝敏 理学研究科准教授らの研究グループは、寄生者を介した渓流魚への陸生昆虫の供給が、渓流魚による水生昆虫類の摂餌量を低下させ、その影響が藻類やさらには河川の生態系機能(有機物の破砕速度)にまで波及することを大規模な野外実験によって実証しました。
本研究は5月15日付で、生態学の著名な国際誌「エコロジーレター(Ecology Letters)」に発表されました。
研究の概要
森林で育まれる陸生昆虫類は、森と川の生態系をつなぐ重要な役割を果たしています。私たちはこれまでに、ハリガネムシ(類線形虫類)という寄生虫(写真参照)が、宿主であるカマドウマ・キリギリス類(陸生昆虫類)の行動を操作して河川に飛び込ませることで、渓流魚に大きな餌資源(河川に飛び込んだ宿主)をもたらすという現象を発見し、そのような宿主が、渓流魚の年間摂餌量の6割をも占めることを明らかにしました。
本研究では、このような寄生者を介した渓流魚への陸生昆虫の供給が、渓流魚による水生昆虫類の摂餌量を低下させ、その影響が藻類やさらには河川の生態系機能(有機物の破砕速度)にまで波及することを大規模な野外実験によって実証しました(図1)。
寄生者は自然界に普遍的に存在し、地球上の全生物種の半数以上を占めるとも言われていますが、それらが生態系において果たす役割を実証した例はほとんどありませんでした。本研究は、これまで見過ごされていた寄生者が、森と川という異質な生態系の連環を支える主要な役割を果たしていることを示す世界でも初めての研究といえます。
持続可能な森林管理は今日的な社会の課題です。複雑な生活史をもつ寄生者は、生態系の撹乱に対して脆弱かも知れません。この点で、ハリガネムシ類は、森と川のつながりを維持する健全な森林管理の在り方を指標する重要な生物種ともいえるかもしれません。
主要な結果
- 本学フィールド科学教育研究センター和歌山研究林内の小河川において、河川に飛び込むカマドウマ類の量を人為的に操作する大規模な野外操作実験を行った結果、カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、アマゴ(サケ科魚類)による水生昆虫類の捕食量が増大し、水生昆虫類の生息量が大きく減少した。
- カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、藻類を摂食する水生昆虫類が減少したために、藻類の現存量が増大した。
- カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、落葉を破砕して摂食する水生昆虫類が減少したために、河川内の落葉破砕速度が減少傾向にあった。
- つまり、ハリガネムシ類によるカマドウマ類の河川への誘導は、その時期における河川の生態系プロセスを改変することが実証された。
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1111/j.1461-0248.2012.01798.x
Sato Takuya, Egusa Tomohiro, Fukushima Keitaro, Oda Tomoki, Ohte Nobuhito, Tokuchi Naoko, Watanabe Katsutoshi, Kanaiwa Minoru, Murakami Isaya, Lafferty Kevin D.
Nematomorph parasites indirectly alter the food web and ecosystem function of streams through behavioural manipulation of their cricket hosts.
Ecology Letters. 15 MAY 2012.
doi: 10.1111/j.1461-0248.2012.01798.x