核酸の産生は昼夜で大きく異なり、その時間は肝臓の時計遺伝子により決められている
京都新聞(4月14日 25面)、日刊工業新聞(4月17日 20面)および読売新聞(4月15日 33面)に掲載されました。
2012年4月17日
Jean-Michel Fustin 薬学研究科研究員、岡村均 同教授らの研究グループは、今回、初めて肝臓の時計は、肝細胞からヌクレオチドを全身臓器にリズミックに供給していることを発見しました。この研究により、時計遺伝子をターゲットとした新しい治療薬を、癌の化学療法と組み合わせることで、新しい癌の化学療法が開ける可能性があることが予測されます。本研究成果は、米国科学誌「Cell Reports」 に発表されました。
書誌情報
- Rhythmic Nucleotide Synthesis in the Liver: Temporal Segregation of Metabolites
Fustin, Jean-Michel; Doi, Masao; Yamada, Hiroyuki; Komatsu, Rie; Shimba, Shigeki; Okamura, Hitoshi
Cell Reports
doi:10.1016/j.celrep.2012.03.001
発表の概要
- 肝臓は全臓器に核酸(RNA、DNA)の原料となるヌクレオチドを供給している。今回初めて、肝臓の時計は、肝細胞からヌクレオチドを全身臓器にリズミックに供給していることを発見した。
- 我々の体を構成する細胞は恒常的なものでなく、常時、細胞が死に、その代わりとなる細胞が生まれている。この再生時に、核の成分である遺伝情報を担うDNAの構成成分となるdATP、dGTP、dTTP、dCTPの生成は、時計遺伝子によってコントロールされ、時計が無いと減少する。従って、時計がないと再生が遅れる可能性が高い。
- ヌクレオチドであるATPは細胞のエネルギー産生の「米」と言えるが、これらはADPの量によって決まる。時計は、ミトコンドリアにあるADPを作る酵素の働きを活動期である夜間にADPの産生量を上げ、時計がないとATPが減少する。
- 今回明らかとなった核酸酵素の日内変動の研究により、抗がん剤 (5-FUなど)の副作用が大きく日内変動を来すのは、時計遺伝子による酵素活性の変動のためであることが推測される。時計遺伝子であるBmal1の発現を抑えると、5-FUの本来の抗がん効果を増す酵素が増大し、正常細胞への毒性を増す酵素を減弱させる。従って、将来、この時計遺伝子をターゲットとした新しい治療薬を、癌の化学療法と組み合わせることで、新しい癌の化学療法が開ける可能性がある。
- 時計遺伝子Bmal1の発現を肝臓で押さえると、肝臓での尿酸量が通常の倍以上に上がる。これは、時計欠損によりプリンの合成が弱まり、分解が亢進することによる。リズム異常で痛風となるリスクがあがると考えられる。
図1: 肝臓のメタボローム解析による、各ヌクレオチドの量がピークとなる時間。
図2: プリン代謝経路(中央図)と、野生型と肝臓特異的Bmal1ノックアウトマウス(Bmal1-/-)での主要な合成酵素mRNAの24時間リズム(周囲図)を示す。上図は、メタボローム解析による、体内時計が昼の時間(CT4)と夜の時間(CT16)における、プリンヌクレオチドの野生型と肝臓特異的Bmal1ノックアウトマウスでの変動を示す。