トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見:効果を肥満マウスで確認

トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見:効果を肥満マウスで確認

2012年2月10日


左から河田教授、金研究員

 河田照雄 農学研究科教授(生理化学研究ユニット兼任)、金英一 同研究員らの研究グループは、柴田大輔 財団法人かずさDNA研究所部長(生存圏研究所客員教授)、日本デルモンテ株式会社、千葉県農林総合研究センターとの共同研究で、脂肪肝や高中性脂肪血症などの脂質代謝異常の改善に有効な新規成分13-oxo-9,11-octadecadienoic acid (13-oxo-ODA) をトマトから見出し、肥満マウスにおいて顕著な改善効果が得られることを確認しました。本研究成果は、米国オンライン科学誌PLoS ONEにて発表されます(日本時間2月10日)。

研究のトピックス性


写真:トマトの生育過程(成熟に伴い健康機能性成分が
作り出される)

 トマトは世界で最も生産されている野菜であり、生食だけでなく、ジュースやソースなど幅広く利用・消費されている食品素材です。ヨーロッパでは古くから「トマトが赤くなると医者が青くなる」という諺があり、トマトは健康野菜として知られています。

 これまではトマトのカロテンやリコペンなどの抗酸化成分の健康機能性は知られていましたが、今回は全く新しい機能性成分が見出されました。本研究は、このような身近な食品であるトマトから、肥満に伴う脂質代謝異常の改善に有効な成分を発見した初めての知見です。

研究の背景と目的

 過栄養と運動不足を背景とした、肥満に伴う脂質代謝異常症やメタボリックシンドロームの増加が世界的な社会問題となっています。脂質代謝異常は、動脈硬化症などの直接的な危険因子となるため、このような代謝異常の予防・改善は非常に重要です。本研究では、身近な食品であるトマトに着目し、脂質代謝異常の改善に有効な新規成分の探索およびその機能解析を行うことを目的としました。

研究の成果


図1:トマトジュースに見出された健康成分13-oxo-ODAの化学構造式

 肝細胞などを用いたin vitroの解析結果から、トマト、特にトマトジュース中に脂肪燃焼作用を有する13-oxo-ODAが多く含まれることを発見しました(図1) 。

 脂質代謝異常に対する13-oxo-ODAの有効性を評価するために、肥満・糖尿病モデルマウスであるKK-Ayマウスを用いて、機能解析を行いました。KK-Ayマウスを13-oxo-ODAを0.02%あるいは0.05%含む高脂肪食(60% kcal 脂肪)で4週間飼育した結果、13-oxo-ODA摂取は、高脂肪食による血中および肝臓中の中性脂肪量の上昇を抑制しました(図2A、B)。また13-oxo-ODA摂取群では肝臓における脂肪酸酸化関連遺伝子群の発現増加(図2C)と同時に、エネルギー代謝亢進の指標である直腸温の上昇が認められ、13-oxo-ODA摂取により脂肪酸酸化、すなわち脂肪燃焼が亢進していることが示唆されました。

   

  1. 図2:肥満・糖尿病モデルマウスKK-Ayの脂質代謝異常に及ぼす13-oxo-ODAの影響
    AおよびB; 13-oxo-DOAの摂取により、血中(A)および肝臓中(B)の中性脂肪量が約30%減少した(B; 肝臓組織切片の顕微鏡写真。 Oil Red Oにより中性脂肪を赤く染色)。 C; 13-oxo-ODAを摂取したマウスの肝臓では、脂肪酸酸化に関連する重要な遺伝子群の発現が顕著に増加した(CPT1aAOX は、脂肪酸酸化に関連する遺伝子)。D; 本研究の結果の概念図。* p<0.05(統計的に有意差がある)。

研究組織

河田照雄(京都大学大学院 農学研究科)
津金胤昭(千葉県農林総合研究センター)
稲井秀二(日本デルモンテ株式会社)
柴田大輔(財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所)

論文情報

Young-il Kim, Shizuka Hirai, Tsuyoshi Goto, Chie Ohyane, Haruya Takahashi, Taneaki Tsugane, Chiaki Konishi, Takashi Fujii, Shuji Inai, Yoko Iijima, Koh Aoki, Daisuke Shibata, Nobuyuki Takahashi, Teruo Kawada
Potent PPARα Activator Derived from Tomato Juice, 13-oxo-9,11-octadecadienoic Acid, Decreases Plasma and Hepatic Triglyceride in Obese Diabetic Mice
PLoS ONE 7(2): e31317. doi:10.1371/journal.pone.0031317
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0031317
http://hdl.handle.net/2433/152546 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))

本研究は、農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」および独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」の支援を受けました。

用語解説

トマト

原産地は南米アンデス高原。世界の生産量は約1億4100万トン/年、日本の生産量は70万トン/年(FAO統計、2009)。世界で最も生産額の多い野菜。

脂質異常症(脂質代謝異常症)

高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症に分類される。以前は高脂血症と呼ばれていた。

メタボリックシンドローム(メタボリック症候群)

わが国では2005年に発表された疾患概念。ウエスト周囲径(内臓脂肪)をキープレーヤーとして、それにいくつかの病気(高血圧、脂質異常症、高血糖)が二つ以上重なった病態。特に、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクを高める。リスクの高い対象者(ハイリスク者)を効率よく抽出し、実効性のある保健指導(生活習慣病改善支援)を行うなどの対策として重要な概念。

 

  • 朝日新聞(2月10日夕刊 1面)、京都新聞(2月10日夕刊 10面)、産経新聞(2月10日夕刊 10面)、中日新聞(2月10日夕刊 12面)、日本経済新聞(2月10日夕刊 16面)、毎日新聞(2月10日夕刊 10面)および読売新聞(2月10日夕刊 14面)に掲載されました。