2011年11月29日
矢野教授
矢野浩之 生存圏研究所生物機能材料分野教授、Md. Iftekhar Shams 日本学術振興会外国人特別研究員らの研究グループは、カニ殻から、フレキシブルで熱膨張の小さい透明材料を製造することに成功しました。本材料は、カニ殻のナノ構造を利用した材料で、Roll to Roll プロセスで製造するフレキシブルディスプレーや太陽電池の透明基板への応用が期待されます。
本研究成果は、2011年11月28日(英国時間)に英国王立化学会発行の雑誌 “Soft Matter”にオンライン公開されました。
研究の概要
カニやエビの殻は、鉄筋コンクリートの様な構造をしています。鉄筋は幅20~30ナノメートルの高強度、低熱膨張のキチンナノファイバーです。コンクリート成分に相当するのは、タンパク質や炭酸カルシウムです。
矢野教授らは、最初に、カニ殻から酸で炭酸カルシウムを、アルカリでタンパク質を取り除き(図1中央)、出来た空隙に透明樹脂を染みこませると、カニ殻が透明になることを見つけました(図1右)。これは、可視光の波長(400~800nm)より十分細い構造体(ここではキチンナノファイバー)は、光の散乱を生じないため、透明樹脂と複合しても、その透明性を損なわないことによります。
図1
この「透明なカニ」に着想を得て、カニ殻粉末(図2左)から同様の処理でタンパク質、炭酸カルシウムを取り除き、水中で撹拌後、濾紙でろ過してカニ殻粉末のシートを作製しました(図2中央)。この時点ではシートはミリ単位の粉末が分散した、外観的には不均一な紙の様です。しかし、そこに透明樹脂を注入すると、ナノ構造体のカニ殻粉末は完全に見えなくなり、不均一なシートは透明になります(図2右)。
図2
この透明シートは、高弾性、低熱膨張のキチンナノファイバーを約20%含むため、ガラスの30倍近くある透明樹脂の線熱膨張(熱による伸び縮み)が、有機EL照明の透明基板に使用可能な、ガラスの3倍程度の値にまで減少しました。また、温度が変化しても透明性は変わりません。キチンナノファイバーの量を増やすことで、ガラス相当にまで線熱膨張を下げることも可能です。
同様の効果は、エビ殻でも得られています。本研究により、未利用のバイオ資源から簡単に高性能の透明材料を創ることができることがわかりました。生き物の構造は、多くがカニ殻やエビ殻と同様に、ナノ繊維で補強されたナノ構造体です。木材や稲ワラも同様です。将来的には、このような植物資源からも、カニ殻シートと同じ様に透明で低熱膨張のガラスに替わる材料を簡単に製造できるといえます。
関連リンク
- 論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1039/C1SM06785K - 以下は論文の書誌情報です。
Md. Iftekhar Shams, Masaya Nogi, Lars A. Berglund and Hiroyuki Yano. The transparent crab: preparation and nanostructural implications for bioinspired optically transparent nanocomposites. Soft Matter, 2012, Advance Article. DOI: 10.1039/C1SM06785K
- 朝日新聞(11月22日 38面)、京都新聞(11月22日 1面)、産経新聞(11月23日 21面)、日本経済新聞(11月22日夕刊 14面)、毎日新聞(11月22日 1面)および読売新聞(11月22日夕刊 12面)に掲載されました。