2011年9月27日
左から阪井教授、川口教務補佐員、由里本准教授
阪井康能 農学研究科/学際融合教育推進センター 生理化学研究ユニット教授、由里本博也 農学研究科准教授、川口甲介 同教務補佐員らの研究グループの成果が科学誌「PLoS One」の電子版に掲載されました。
【論文情報】
Kawaguchi K, Yurimoto H, Oku M, Sakai Y (2011) Yeast Methylotrophy and Autophagy in a Methanol-Oscillating Environment on Growing Arabidopsis thaliana Leaves. PLoS ONE 6(9): e25257. doi:10.1371/journal.pone.0025257
研究の背景
エタノールが酒精と呼ばれるのに対し、メタノールは木精(木のアルコール)と呼ばれる。植物表層にはメタノールが大量に含まれ、植物の葉からは年間約1億トンのメタノールが大気中に放出されるため、森林大気中ではメタノール濃度が高く、地球温暖化にも影響を与えていることが知られている。一方、微生物は自然界の分解者(掃除屋)と言われるが、メタノールを食べるC1微生物と呼ばれるものがいて、土中や植物表面に住んで、植物の分解者の一つと考えられている。だが、植物葉上でのメタノール濃度や、C1微生物がどのようなライフスタイルで生きているのか、全く明らかになっていなかった。
研究の概要
メタノールに応答して光る細胞センサーの開発と植物表層メタノール濃度の日周変動
従来、植物から放出されるメタノール量は、空気中のメタノール濃度により測定されていたが、植物表面のメタノール濃度はわからない。今回、メタノール濃度に応答して蛍光を発する「メタノール細胞センサー」を新たに開発して、植物表面のメタノール濃度を、直接計測したところ、若い葉の上ではメタノール量が日周性をもって変動しており、夜に高く、昼間はほとんどないことがわかった。
微生物もアルコールは夜に飲む
メタノール量が日周変動する植物葉上では、メタノールを食べるC1酵母が、2週間で3~4回ぐらいの分裂をすることにより、非常にゆっくりと増えることがわかった。植物の表面で、メタノールを食べるために必要な遺伝子と細胞内小器官(ペルオキシソーム)の動きを調べてみると、こちらもメタノール濃度にあわせて、昼夜で増減していた。また、メタノールを食べるための遺伝子やペルオキシソームを増やしたり減らしたりするための遺伝子が、C1酵母が植物上で増えるためには必要であった。人と同じように、C1酵母は、夜にメタノールを飲んで生活していることになる。
栄養源の少ない枯葉の上では、堪え忍んで次のチャンスを待つ
老化した葉や枯葉の上では、メタノール濃度がかなり高く、C1酵母は、ペルオキシソームを細胞内容積の80%ぐらいになるまで発達させて、その中に栄養分の一つであるタンパク質を大量にため込んでいた。植物葉上には他の栄養分が少ないので、枯れた後、葉ごと一緒に土におちて、次に栄養分を手にする機会をうかがっていると考えられる。
将来展望
C1酵母がメタノールを食べるという性質は、これまでワクチンや医薬品など有用タンパク質を製造するために利用されており、今回の研究は、培養のいらない植物上でのタンパク質直接生産がC1酵母により可能なことを示している。また、C1酵母の自然界での生き様、すなわち植物上でのメタノール濃度の日周変動やC1酵母が植物上でもメタノールを食べている事実は、今後、温室効果ガスの一つであるメタンを削減するために必要な基本情報であり、今後は、環境問題を解決できるような技術開発を行っていきたい。
関連リンク
- 論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0025257
http://hdl.handle.net/2433/147159 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
- 京都新聞(9月27日夕刊 8面)および産経新聞(9月28日 24面)に掲載されました。