2011年4月12日
佐藤拓哉 次世代研究者育成センター特定助教(受け入れ機関:フィールド科学教育研究センター)、渡辺勝敏 理学研究科准教授らの研究グループの研究成果が、米国の著名な国際誌「エコロジー(Ecology)」に、4月8日に発表されました。
【論文情報】
SatoT, Watanabe K, Kanaiwa M, Niizuma Y, Harada Y. and Lafferty K. D. 2011 Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian ecosystem.
Ecology 92: 201-207
- 日本語タイトル
「寄生者(ハリガネムシ類)が駆動する渓畔生態系のエネルギー流」
当研究は、佐藤特定助教が奈良女子大学共生科学研究センター在籍時になされ、その後、次世代研究者育成センターに特定助教として赴任してから論文の発表に至ったものです。
研究の概要
森林で育まれる陸生昆虫類は、森と川の生態系をつなぐ重要な役割を果たしています。例えば、渓流釣りなどで馴染み深いアマゴやイワナ(河川性サケ科魚類)は、水生生物でありながら、陸生昆虫類に大きく依存して暮らしています。彼らは、陸生昆虫類を摂餌する量に応じて、水生昆虫類の摂餌量を変え、その影響は河川生態系の機能(生物多様性の維持・水質形成・有機物の流れなど)にまで波及する可能性があります。また、羽化した水生昆虫類を摂餌する森林の生物たちにも影響します。
一方、陸生昆虫類はどのようにして、河川に供給されているのか?このシンプルな疑問についてはこれまで、風雨による偶発的な落下によるとされてきました。
この疑問に対して、私たちは、ハリガネムシ(類線形虫類)という寄生虫(写真1)が、宿主であるカマドウマ・キリギリス類の行動を操作して河川に飛び込ませることで、渓流魚たちに大きな餌(河川に飛び込んだ宿主)をもたらすという現象を発見し、そのような宿主が、イワナの年間摂餌量の6割をも占めることを明らかにしました(図1)。
寄生者は自然界に普遍的に存在し、地球上の全生物種の半数以上を占めるとも言われていますが、それらが生態系において果たす役割は明らかにされていません。本研究は、これまで見過ごされていた寄生虫が、森林と河川という異質な生態系をつなぐ大きなエネルギー流を駆動していることを明らかにした世界でも初めての研究です。
複雑な生活史をもつ寄生者は、生態系の撹乱に対して脆弱かも知れません。本研究の結果は、森林と河川の生態学的なつながりを維持する上で、これまで見過ごされてきた寄生虫の存在がきわめて重要であることを示しています。
- 写真1. ハリガネムシ類に寄生されたカマドウマ(撮影:檀上幸子)
関連リンク
- 論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1890/09-1565.1
http://hdl.handle.net/2433/139443 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
- 京都新聞(4月15日 25面)および読売新聞(5月16日 19面)に掲載されました。