2010年11月9日
高折晃史 医学研究科教授、泉泰輔 エイズ予防財団リサーチ・レジデントは、HIV-1ウイルスのVif蛋白による新たなHIV-1ウイルス複製制御メカニズムを解明し、この研究成果がPNAS Early Editionに掲載されました。
論文名:「HIV-1 Viral infectivity factor interacts with TP53 to induce G2 cell cycle arrest and positively regulate viral replication」
研究の概要
HIV-1 Vif(Viral Infectivity Factor)蛋白は、HIV-1の生体内における複製・増殖に必須の蛋白質である。近年、その分子機構が明らかになった。Vif蛋白は、本来HIV-1の標的細胞中に存在する宿主因子APOBEC3Gを中和している。
APOBEC3Gは、DNAに変異を導入するシチジン脱アミノ化酵素であり、HIV-1が逆転写する際に、ウイルス1本鎖DNAにCからUへの変異を導入することによりHIV-1の複製を阻害している。Vif蛋白は、APOBEC3Gと結合しユビキチン-プロテアソーム系を介してこれを分解することでその抗ウイルス活性を中和し、ウイルス複製を正に制御している(図)。
今回の我々の研究成果は、Vif蛋白の新たな機能とその分子メカニズムを明らかにした。具体的には、従来より、HIV-1感染細胞は細胞周期がG2期で停止することが知られていたが、その分子機構およびウイルス学的な意義は不明であった。今回、我々は、Vifがp53依存性にG2期停止を惹き起すこと、それによりウイルス複製を正に制御していることを明らかにした。
現在、世界的にVif/APOBEC3Gの相互作用を標的とした新規抗HIV-1薬の開発が進められているが、今回の研究成果は、Vifを標的とする新規HIV-1感染制御法に関する可能性を支持するものであり、その創薬に向けた動きをさらに加速するものと思われる。
関連リンク
- 論文は、以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1008076107
http://hdl.handle.net/2433/131335(京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
- 朝日新聞(11月9日 21面)、京都新聞(11月9日 26面)、産経新聞(11月9日 22面)、中日新聞(11月9日 27面)、日刊工業新聞(11月9日 25面)、日本経済新聞(11月9日 38面)および読売新聞(11月9日夕刊 2面)に掲載されました。