プロスタグランジンF受容体がTGF-βと独立して肺線維症を促進することを解明しました

プロスタグランジンF受容体がTGF-βと独立して肺線維症を促進することを解明しました

2009年11月30日


左から成宮教授、小賀徹 医学研究科講師

 成宮周 医学研究科教授らの研究グループの研究成果が「Nature Medicine」誌に掲載されることになりました。

  • 論文名
    "Prostaglandin F receptor signaling facilitates bleomycin-induced pulmonary fibrosis independently of transforming growth factor-β"
    (プロスタグランジンF受容体シグナル伝達はトランスフォーミング増殖因子-β非依存的にブレオマイシン誘発性肺線維症を促進する)

研究成果の概要

 特発性肺線維症(IPF)は、線維芽細胞の増殖やコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の過剰な沈着で肺に構造や機能の異常を引き起こす進行性の疾患で、その平均生存期間は3~5年である(図1)。現在IPF患者は、抗炎症薬や免疫抑制薬で治療されているが、これらは有効性に乏しく、線維形成機構そのものを標的とする新たな治療薬の開発が望まれている。さまざまな線維症でトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)の働きが重要とされているが、IPFの動物モデルであるブレオマイシン誘発性肺線維症でTGF-β経路を阻害しても、線維症は完全に抑制できない。このことから、線維形成にはTGF-β以外の経路も重要な役割を担っていることが推測されていた。

    

  1. 図1. (左)普通の人の肺のCT、(右)特発性肺線維症のCT

 我々は、プロスタグランジンなどのアラキドン酸代謝物を生じる細胞質ホスフォリパーゼA2(cPLA2)の欠損がブレオマイシン誘発性肺線維症を抑制するという事実から、肺線維症発症でのプロスタグランジン類の関与を考え、各プロスタグランジン受容体を欠損するマウスを使ってこれを検討した。本論文では、プロスタグランジンF(PGF)受容体(FP)の選択的欠損により、ブレオマイシン誘発肺線維症が軽減されること(図2)、このとき、肺炎症やTGF-β活性化は野生型マウスと同程度に見られること、また、FP欠損とTGF-βシグナル伝達抑制を併せると、線維症が相加的に低減されることを示す。実際に、PGFはIPF患者の気管支肺胞洗浄液(BALF)に豊富に存在し、これは、TGF-β非依存的に、FPを介して肺線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生を促進する。

    

  1. 図2. プロスタグランジンF(PGF)受容体(FP)の選択的欠損により、ブレオマイシン誘発肺線維症が軽減

 以上の知見は、PGF-FPシグナル伝達経路がTGF-β非依存的に肺線維症を促進することを明らかにしたもので、このシグナル伝達経路のIPFの治療標的としての可能性を示唆するものである。

 

  • 朝日新聞(12月15日 20面)、京都新聞(11月30日 28面)、産経新聞(11月30日 24面)、日本経済新聞(11月30日 12面)および毎日新聞(11月30日 3面)に掲載されました。