2009年5月25日
左から医学研究科のChengcan Yao 博士研究員、
成宮周 教授、坂田大治 博士研究員
成宮周 医学研究科教授らの研究グループは、樹状細胞やT細胞の表面に出ているEP4と呼ばれる受容体にプロスタグランジンという物質が作用することで、の分化や細胞の増幅を促進すること、接触性皮膚炎や多発性硬化症の動物モデルを用い、EP4受容体の作用を阻害する薬物を投与することで免疫病の発症を抑制できることを発見しました。
この研究成果は、5月24日付「Nature Medicine」オンライン版に掲載されることになりました。
論文名:
- Prostaglandin signaling promotes immune inflammation through cell differentiation and cell expansion
Chengcan Yao, Daiji Sakata, Yoshiyasu Esaki, Youxian Li, Toshiyuki Matsuoka, Kenji Kuroiwa, Yukihiko Sugimoto, Shuh Narumiya
研究成果の概要
関節リウマチ、多発性硬化症、クロン病などの免疫病は、難病といわれ、それらに対する治療法の開発は社会的急務である。免疫は、そもそも、外来性の病原体の排除に働くものであるが、アレルギーや免疫病は、この過程に働くリンパ球の一種であるT細胞の過剰、あるいは、T細胞は、通常は非活性化状態にあるが、生体内に異物が侵入したり、病気で異物と認識される抗原が出現したりすると活性化され、、、と呼ばれる異なった機能をもつ細胞へと分化する。このうち、とくに、細胞(ある場合にはと細胞の両方)が、活性化されると組織破壊を起こし炎症を惹起して、様々な免疫病を起こすものと考えられている。これらのT細胞は、多くの場合、樹状細胞と呼ばれる別の細胞から様々なシグナルを受けて分化、増殖し、体の中で機能を発揮する。
成宮教授らの研究グループは、今回、樹状細胞やT細胞の表面に出ているEP4と呼ばれる受容体にプロスタグランジンという物質が作用することで、の分化や細胞の増幅を促進すること、接触性皮膚炎や多発性硬化症の動物モデルを用い、EP4受容体の作用を阻害する薬物を投与することで免疫病の発症を抑制できることを見出した。
や細胞は非活性状態のT細胞にIL-12やIL-23などのサイトカインと呼ばれる物質を作用させることで、試験管内で分化させたり、増幅させたりできる。我々はマウスから非活性状態のT細胞を取り出し、サイトカインを作用させることでや細胞を誘導した。ここにさらにを加えるとサイトカインだけの場合と比べて最大5~6倍程度の数のや細胞を誘導することができた。は細胞の表面上に出ているEP1、EP2、EP3、EP4と呼ばれる4種類の受容体のいずれかに結合することが分かっているので、この中でどの受容体が重要であるか、それぞれの受容体に特異的に作用する薬を使って調べ、EP2やEP4が重要であることを突き止めた。さらに、EP4は樹状細胞からのIL-23の産生に必須であることも明らかにした(図1)。同研究グループは、このEP4を介するの作用が実際の免疫病で炎症の増悪に働いているかを明らかにするため、ついで、や細胞が関与すると考えられている多発性硬化症のモデルとされる実験的自己免疫性脳脊髄炎を起こしたマウスにEP4の働きを抑える薬物を投与した。その結果、このモデルで、EP4拮抗薬は、ほぼ完全に麻痺症状を抑えることができた(図2)。同研究グループでは、今後は臨床応用を行いアレルギーや自己免疫疾患の治療に繋げたいと考えている。
図1
図2
本研究は、グローバルCOE「生命原理の解明を基とする医学研究教育拠点」の活動の一環として行なわれている。
- 京都新聞(5月25日 24面)、日刊工業新聞(5月25日 26面)および読売新聞(6月1日 10面)に掲載されました。