沼田英治 理学研究科教授、松田直樹 同博士課程学生、田中一裕 宮城学院女子大学教授、渡康彦 芦屋大学教授らの研究グループは、涼しい北日本では年1世代、暖かい南日本では年2世代の生活史(ライフサイクル)をもつ「シバスズ」という小型のコオロギにおいて、温暖化によって年2世代の地域が北へ広がったことを示しました。
本研究成果は、2018年10月4日に、米国の国際学術誌「Global Change Biology」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
近年の温暖化が生物にどのような影響を与えたのかは興味深い課題です。しかし、実際に生息している生物の生活史にどのような影響があったかを広い範囲で調べた研究はありません。私たちは、小さなコオロギの大きさを測ることで、過去40年間に年間世代数に変化が見られたことを示し、温暖化と関係があると推定しました。このような成果の蓄積が、温暖化対策や生物の保全に役立つことを期待しています。
概要
先行研究により、日本各地のシバスズ成虫の体サイズが緯度に対してジグザグ型のグラフを示し、年1世代と年2世代の境界付近で成虫の体サイズが小さいことが明らかにされていました。
本研究グループは、この40年前の先行研究で調査されたシバスズの体サイズと、本研究グループが2015年から2017年にかけて日本各地から採集した標本5,500体の体サイズを比較しました。その結果、シバスズの生活史(ライフサイクル)の境界の緯度が1~2度北上したことを明らかにしました。また、シバスズが成長することができる暖かい季節の長さが40年前と比べて長くなったことから、かつて年1世代であった地域で年2世代の生活史をもつ個体が増えたと考えられます。
温暖化と並行して昆虫の分布が変化したという報告はありますが、本研究成果は、すでに分布している昆虫の生活史が変化したことを示した点で珍しい例であり、温暖化が生物にどのように影響するかを考える上で、貴重な成果であると考えられます。