上田佳宏 理学研究科准教授らの研究グループは、カトリカ大学(チリ)、チューリヒ工科大学(スイス)などと共同で、透過力の強い硬X線で見つかった多数の活動銀河核(銀河の中心部で明るく輝く領域)を、世界中のX線望遠鏡や地上の可視光望遠鏡を用いて詳しく調査することで、巨大ブラックホールの質量、輻射光度、覆い隠しているガスの量を精度よく測定することに成功しました。その結果、ブラックホールをとりまくガスや塵はそのごく近傍に位置しており、その配置を決める主要因が、中心部から発生する電磁波の輻射圧(光の力)であることを突き止めました。
本研究成果は、2017年9月28日午前2時に英国の科学誌「Nature」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究成果は、世界中の活動銀河核の研究者が結束し、全天に分布する400もの天体のX線・可視光観測の結果をまとめることで、初めて得られたものです。日本の「すざく」衛星の観測データも大きく貢献しています。「ひとみ」衛星の後継機となるXARM(X-ray Astronomy Recovery Mission)では、個々の活動銀河核について、巨大ブラックホールを覆い隠すガスの運動をこれまでにない精度で直接、測定できるようになり、その物理状態の理解がさらに進むと期待されます。
概要
銀河の中心に普遍的に存在する巨大ブラックホールの成長メカニズムとその環境の理解は、現代天文学の大きな課題の一つです。巨大ブラックホールに周囲のガスが流れ込むと、銀河の中心部が明るく輝き、「活動銀河核」として観測されます。これらの活動銀河核の大多数は、大量のガスや塵に覆われていることがわかっていますが、その理由は長年来の謎のままでした。
本研究グループは、偏りのない多数の活動銀河核サンプルを作り、その「統計的性質」を調査するという方法をとりました。活動銀河核の一つ一つについて、その基本的性質である(a)光度(ブラックホールからの輻射エネルギーの強さ)、(b)ブラックホールを隠している視線方向にあるガスの量、(c)ブラックホールの質量を、X線望遠鏡や地上可視光望遠鏡を用いて精度よく求めていきました。
詳しいデータ解析の結果、「ブラックホール質量に対する光度の比」が大きくなるほど、ブラックホールを覆い隠しているガスの量が減っていることがわかりました。つまり、周囲のガスの分布を決定する主要因は、ブラックホール質量で規格化した降着率(単位時間あたりにブラックホールが吸い込むガスの量)であることが、世界で初めて明らかになりました。ブラックホールがあまりにも急速に物質を吸引する結果、放射される光の力が自身の重力よりも強くなってしまうと、覆っていたガスは吹き飛んでしまい、ブラックホールがそれらを吸い込んで「太り続ける」ことはできなくなります。本研究成果は、巨大ブラックホール及びそれと共に進化する銀河の成長メカニズムを理解する上で、鍵となる発見です。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/nature23906
Claudio Ricci, Benny Trakhtenbrot, Michael J. Koss, Yoshihiro Ueda, Kevin Schawinski, Kyuseok Oh, Isabella Lamperti, Richard Mushotzky, Ezequiel Treister, Luis C. Ho, Anna Weigel, Franz E. Bauer, Stephane Paltani, Andrew C. Fabian, Yanxia Xie & Neil Gehrels (2017). The close environments of accreting massive black holes are shaped by radiative feedback. Nature, 549(7673), 488-491.
- 京都新聞(9月28日 24面)に掲載されました。