西尾治幾 生態学研究センター 研究員、工藤洋 同教授らの研究グループは、植物が春の暖かさのみを感じるために、 FLC という植物の花の形成を抑制する遺伝子の発現が、春には一方向的に上昇して逆行しないしくみをもつことを明らかにしました。
春は昼夜の気温変化が激しく、昼は暖かいですが夜は寒くなります。一方で、植物が春に開花するためには、春の暖かさのみに応答する必要があります。本研究グループは、日本に自生するアブラナ科の植物ハクサンハタザオの自然集団において、 FLC 遺伝子領域におけるヒストンとよばれるタンパク質に着目し、野外で2年間の季節変化を調べました。このヒストンタンパク質は抑制型と活性型をとり、そのバランスが FLC 遺伝子の働きを決めます。
最先端のモデリング手法を用いて調べたところ、抑制型と活性型のヒストンが相互作用することで、 FLC 遺伝子の発現が気温の長期傾向に応答できることがわかりました。また、抑制型のヒストンが、 FLC 遺伝子領域全体に蓄積することによって、春の寒さを無視するような働きをして、春に遺伝子の発現が一方向的に上昇することがわかりました。本研究において、花の形成に関わる遺伝子が複雑に変動する環境に惑わされずに春の訪れをとらえるしくみが明らかになりました。
本研究成果は、2020年5月1日に、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-020-15896-4
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/251031
Haruki Nishio, Diana M. Buzas, Atsushi J. Nagano, Koji Iwayama, Masayuki Ushio & Hiroshi Kudoh (2020). Repressive chromatin modification underpins the long-term expression trend of a perennial flowering gene in nature. Nature Communications, 11:2065.