霊長類のフェロモン様物質の同定に成功 -ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い-

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今井啓雄 霊長類研究所教授らの研究グループは、東京大学、進化生物学研究所、日本モンキーセンターらと共同で、特徴的な嗅覚コミュニケーションを行うワオキツネザルに注目し、ヒトを含む霊長類で初めて、異性を惹き付けるフェロモン様効果のある匂い物質の同定に成功しました。

ワオキツネザルのオスは、手首の内側にある臭腺(前腕腺)を自身の長い尻尾にこすりつけてその尻尾を大きくゆらし、メスへのアピールや他オス個体への威嚇を行います。本研究グループは、行動観察により、メス個体が、繁殖期のオスの前腕腺分泌液の匂いをより長く、より注意深く嗅ぐ一方で、非繁殖期の分泌液にはあまり興味を示さないことを明らかにしました。次に、分泌液の成分分析を行い、繁殖期の分泌液中には、体内の男性ホルモン(テストステロン)の増加に伴い、フローラル・フルーティー様の香りを持つ三種類の長鎖アルデヒド群が増加していることを見出しました。さらに、これらの成分のみを染み込ませた綿球に対しては、繁殖期のメスのみが興味を示し、非繁殖期のメスは興味を示さないことがわかりました。今回同定されたオスの繁殖期を特徴づける匂い成分が、メスを誘引するフェロモン様の匂いシグナルとして機能していることがわかりました。

本研究成果は、霊長類の嗅覚コミュニケーションの実態を物質レベルで裏付ける最初の知見であると同時に、野生での絶滅が危惧されるワオキツネザルの繁殖管理や保全に役立つと考えられます。

本研究成果は、2020年4月17日に、国際学術誌「Current Biology」のオンライン版に掲載されました。

図:ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂いシグナル同定

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.03.037

Mika Shirasu, Satomi Ito, Akihiro Itoigawa, Takashi Hayakawa, Kodzue Kinoshita, Isao Munechika, Hiroo Imai, Kazushige Touhara (2020). Key Male Glandular Odorants Attracting Female Ring-Tailed Lemurs. Current Biology, 30(11), 2131-2138.e4.

  • 京都新聞(7月1日夕刊 2面)、日本経済新聞(4月26日 30面)および読売新聞(5月2日夕刊 8面)に掲載されました。