精子幹細胞の自家移植により先天性男性不妊症が回復することを発見 -先天性不妊症にも柔軟性-

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篠原隆司 医学研究科 教授らの研究グループは、精子幹細胞を自家移植することで先天性男性不妊症の治療ができることをモデルマウスによる実験で発見しました。

本研究グループは精子形成に必須と考えられている血液精巣関門を構成するCldn11(クローディン11)と呼ばれる膜タンパク質に注目しました。血液精巣関門は精巣の体細胞であるセルトリ細胞の間にある構造で血液中の分子が精巣内に侵入するのを妨げるものです。Cldn11欠損マウスでは精子形成が減数分裂期で停止しており、先天的に不妊症になっています。本研究グループはこのマウスの右側の精巣細胞をバラバラにし、左側の精巣の精細管内に移植したところ精子形成が回復することを見出しました。精巣にはCldn11のファミリー分子であるCldn3、Cldn5も発現しています。そこでこれらの分子の発現を小ヘアピンRNAにより発現抑制したところ、精子形成を回復することが出来ました。こうした精巣に生じた精子を用いて顕微受精を行うと、外来遺伝子の入っていない正常な子孫を得ることが出来ました。

本研究成果は血液精巣関門が精子形成に必要であるという従来の見解を覆し、先天的な不妊症でも一定の可塑性があり妊孕性(にんようせい:妊娠する力)を回復できる可能性を示すものです。一般に幹細胞移植は正常な幹細胞を正常な環境へ移植することで治療を行う手法ですが、今回のように異常組織の自家移植で治療が出来るケースがあることを考えると他の組織においても同様に治療が可能なケースがあることが示唆されます。

本研究成果は、2020年3月31日に、国際学術誌「PNAS (米国科学アカデミー紀要) 」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1914963117

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/250237

Mito Kanatsu-Shinohara, Narumi Ogonuki, Shogo Matoba, Atsuo Ogura, and Takashi Shinohara (2020). Autologous transplantation of spermatogonial stem cells restores fertility in congenitally infertile mice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 117(14), 7837-7844.