高見剛 産官学連携本部 特定准教授、福永俊晴 名誉教授(産官学連携本部特任教授)、竹内友成 産業技術総合研究所 主任研究員らの研究グループは、 蓄電池の正極材料の候補であり、既存のリチウムイオン電池を凌ぐ高容量材料として注目されている 硫化物材料のうち硫化鉄リチウム(Li x FeS 5 )に着目し、新奇相・物性の開拓に対する「イオン摂動」の有効性を実証しました。
本研究では、出発組成であるLi 8 FeS 5 を合成し、電気化学的手法によってリチウムの脱離(充電)と挿入(放電)を行い、リチウム数が異なるいくつかの組成について電子・磁気物性を精査しました。
その結果、Li x FeS 5 は、低リチウム領域(x≒2)では、電子伝導性の高い非磁性のアモルファス相であり、リチウムを挿入するにつれて磁化が増大し、高リチウム領域(x>9)では、スピン偏極によって強い磁性を有する絶縁体的な低結晶相であることが分かりました。さらに第一原理計算を行った結果、高リチウム領域では、鉄は非従来型の低原子価状態(Fe + )であり、このFe + がこうした磁性を担っていることが示唆されました。
本研究成果で提案するイオン摂動は、イオン種の電気的な挿入と脱離を独立に制御することで、電気的、磁気的特性が全く異なる2つの相を可逆的にスイッチングできます。これは概念として意義深いばかりでなく、温室効果ガスを排出することなく、エネルギー需要の増加に対応できる革新的な高容量蓄電池の開発につながる成果です。
本研究成果は、2019年12月27日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-56244-x
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/245249
Tsuyoshi Takami, Tomonari Takeuchi & Toshiharu Fukunaga (2019). Spin polarization in the phase diagram of a Li–Fe–S system. Scientific Reports, 9:19947.