リソソームが成体神経幹細胞を制御するメカニズムを解明

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小林妙子 ウイルス・再生医科学研究所助教、影山龍一郎 同教授(兼・高等研究院 物質-細胞統合システム拠点=iCeMS(アイセムス)連携 主任研究者 )らの研究グループは、成体脳内の神経幹細胞の増殖・休眠がリソソーム活性の変動によって制御されていることを見いだしました。

大人の神経幹細胞は脳内の海馬歯状回や側脳室の周辺領域にわずかに存在していますが、そのほとんどが増殖や分化を停止した休眠状態にあります。休眠状態は、一生涯という長い期間、幹細胞を良い状態で体の中にストックしておくために重要です。本研究グループは、休眠状態では細胞内のタンパク質群を全体的に制御している特別なシステムがあるのではないかと考えて解析を行ってきました。これまでに脳室周囲の休眠状態の神経幹細胞でリソソームが多く存在することは報告されていましたが、「休眠」にリソソームがどのような役割を持つのかについては、全く明らかにされていませんでした。

リソソームは細胞内で様々な物質の分解を行う細胞内小器官であり、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた膜受容体を分解します。本研究グループは、増殖している神経幹細胞が休眠状態に入る際に、(1)細胞内のリソソームが増加すると共にリソソーム活性が上昇すること、(2)増殖のシグナル伝達に関わる膜受容体をより速やかに分解すること、また、(3)リソソームの働きを阻害すると神経幹細胞は休眠状態を脱すること、逆に、(4)リソソーム活性を人工的に上昇させると神経幹細胞は増殖をやめて休眠状態に入ること、を見いだしました。これらの結果から、成体脳内の神経幹細胞において、リソソーム活性が休眠状態の重要な制御因子であることを明らかにしました。

本研究成果は、2019年11月29日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

図:本研究のイメージ図(イラスト:高宮泉水 iCeMS特定助教)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-019-13203-4

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/244865

Taeko Kobayashi, Wenhui Piao, Toshiya Takamura, Hiroshi Kori, Hitoshi Miyachi, Satsuki Kitano, Yumiko Iwamoto, Mayumi Yamada, Itaru Imayoshi, Seiji Shioda, Andrea Ballabio & Ryoichiro Kageyama (2019). Enhanced lysosomal degradation maintains the quiescent state of neural stem cells. Nature Communications, 10:5446.

  • 日刊工業新聞(12月2日 19面)および読売新聞(12月20日 19面)に掲載されました。