生殖細胞のシグナル異常が老化に伴う精子形成異常を誘導することを発見 -精子幹細胞の老化機構の解明-

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篠原美都 医学研究科 助教らの研究グループは、自律的に起こる生殖細胞のシグナル異常が老化に伴う精子形成の減弱を引き起こすことを発見しました。

精子幹細胞は毎日膨大な数の精子を作り続けますが、老化とともに精子形成は減弱します。その原因は生殖細胞側になく体細胞側にあると考えられてきました。

本研究では精子幹細胞の培養系を用いてその老化メカニズムを調べました。テロメアは染色体の末端にあり細胞の増殖限界を規定するものです。老化精子幹細胞ではテロメア短縮に関わらずほぼ無限に増殖しましたが精子への分化能力の喪失が見られ、精子幹細胞自体も自律的に老化することを示しています。精子幹細胞の老化にはストレス応答性キナーゼであるJNKシグナルを中心とするシグナル異常が引き起こす様々な変化(増殖亢進、ミトコンドリア機能低下、代謝経路の変化など)が伴い、これらの現象は培養細胞だけでなく老化個体精巣の幹細胞でも認められました。

本結果はテロメアが細胞の増殖限界を規定するという従来の見解を覆すとともに、幹細胞も自律的に老化し精子異常を起こすことを示す点で画期的であり、老化に伴う精子形成低下の原因解明とその新たな治療法開発に貢献するものです。

本研究成果は、2019年7月30日に、国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1904980116

Mito Kanatsu-Shinohara, Takuya Yamamoto, Hidehiro Toh, Yasuhiro Kazuki, Kanako Kazuki, Junichi Imoto, Kazuho Ikeo, Motohiko Oshima, Katsuhiko Shirahige, Atsushi Iwama, Yoichi Nabeshima, Hiroyuki Sasaki, and Takashi Shinohara (2019). Aging of spermatogonial stem cells by Jnk-mediated glycolysis activation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 116(33), 16404-16409.