モータータンパク質とATPの結合を1分子で可視化することに成功 -ナノ構造に閉じ込めた光でモータータンパク質の仕組みに迫る-

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横川隆司 工学研究科准教授、藤本和也 同特定研究員(現・SOINN株式会社Senior researcher)らの研究グループは、飯野亮太 分子科学研究所教授、富重道雄 青山学院大学教授らと共同で、ナノ構造(ナノスリット)を用いてモータータンパク質であるキネシンとその運動に必要なアデノシン三リン酸(ATP)分子を同時に1分子観察する手法を開発しました。これにより、キネシンにATP分子が一つずつ結合する様子をリアルタイムで観察することができるようになり、キネシンが微小管と結合している場合には、ATP分子との結合時間が変化することを明らかにしました。

キネシンは細胞骨格を構成する微小管の上を運動することで、細胞小器官やタンパク質の輸送の原動力として働いています。この運動のエネルギー源はATPの加水分解反応であることが知られており、その化学反応と力学運動の相関について多くの研究が行われてきました。本研究では、幅100 nm程度のナノスリット内に光を閉じ込めて、1分子観察における背景光のノイズを抑制する新手法「Linear ZMWs」によって、蛍光ATPがキネシンに結合・解離する様子をリアルタイム観察しました。これにより、微小管の有無によってATPがキネシンに結合している時間や頻度が変化していることを1分子で捉えることに成功しました。

本研究で確立したナノスリットによるモータータンパク質の観察法は、キネシンだけでなく、ダイニンやミオシンなど他のモータータンパク質の1分子観察にも応用できます。本手法によって、モータータンパク質の運動機構について新たな知見を得ることが期待できます。

本研究成果は、2018年12月3日に、国際学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載されました。

図:Linear ZMWのイメージ図。 100 nm程度のスリットにより微小管(ピンク)、キネシン(緑)、蛍光ATP(赤)を用いた1分子観察におけるノイズを抑制することに成功した。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/acsnano.8b03803

Kazuya Fujimoto, Yuki Morita, Ryota Iino, Michio Tomishige, Hirofumi Shintaku, Hidetoshi Kotera, and Ryuji Yokokawa (2018). Simultaneous Observation of Kinesin-Driven Microtubule Motility and Binding of Adenosine Triphosphate Using Linear Zero-Mode Waveguides. ACS Nano, 12(12), 11975-11985.