小笠原宇弥 霊長類研究所博士課程学生、高田昌彦 同教授、松本正幸 筑波大学教授らは、注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで障害が見られる不適切な行動を抑制する脳のメカニズムを発見しました。
本研究成果は、2018年11月9日に、米国の学術誌「Neuron」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究成果は、パーキンソン病でみられる運動障害に象徴されるように、これまで運動機能に重要な役割を果たしていると考えられてきた、中脳のドーパミン細胞が「行動抑制」という認知機能にも関わっていることを明らかにした点で大変興味深いものです。ドーパミン神経のうち黒質から尾状核に連絡するものが特に関与していることもわかったので、パーキンソン病や注意欠陥多動性障害で「行動抑制」が破綻した際の治療ターゲットが示唆された点から、今後の研究進展に期待したいと思います。
概要
ドーパミン神経系に異常が見られる精神・神経疾患では、行動の抑制が困難になります。しかし、ドーパミン神経系が行動を抑制するメカニズムは明らかになっていませんでした。
本研究グループは、行動を抑制することが求められる認知課題を、ヒトに近縁なマカク属のサルに訓練し、課題遂行中のサルの黒質緻密部および腹側被蓋野のドーパミン神経細胞から活動を記録しました。実験の結果、サルが行動を抑制することを求められたとき、ドーパミン神経細胞の中でも黒質緻密部に分布するものだけが活動を上昇させました。また、黒質緻密部のドーパミン神経細胞から投射を受ける線条体領域(尾状核)からも、同様の神経活動の上昇が観察されました。さらには、この線条体領域へのドーパミン神経細胞からの神経入力を薬理学的に遮断すると、不適切な行動を抑制するサルの能力が著しく低下しました。
本研究により、黒質緻密部のドーパミン神経細胞から線条体尾状核に対して、不適切な行動を抑制するための神経シグナルが伝達されていることが明らかとなりました。本研究成果は、注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで見られる不適切な行動を抑制できない症状の治療ターゲットとして、黒質-線条体ドーパミン神経路が有力な候補であることを示しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.neuron.2018.10.025
Takaya Ogasawara, Masafumi Nejime, Masahiko Takada, Masayuki Matsumoto (2018). Primate Nigrostriatal Dopamine System Regulates Saccadic Response Inhibition. Neuron, 100(6), 1513-1526.e4.