高橋千太郎 名誉教授(複合原子力科学研究所特任教授)、高橋知之 複合原子力科学研究所准教授らのグループは、高レベル放射性廃棄物から取り出した貴金属のパラジウムに微量混入する可能性のある放射性パラジウムについて、放射線管理区域から持ち出して通常の生活環境で使用しても安全といえるクリアランスレベルを、世界で初めて試算しました。
本研究成果は、2018年9月14日に、国際学術誌「Journal of Nuclear Science and Technology」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
高レベル放射性廃棄物は、原子力発電所で使用した核燃料を再処理する際に出てくる放射性廃棄物のうち特に放射能濃度の高い廃棄物です。核のゴミともいわれ適切な処理・処分が求められています。
今回の研究は、このような高レベル放射性廃棄物も、科学技術の力を結集すれば貴重な資源になるかもしれないという夢のある研究プログラムの一部です。高レベル放射性廃棄物から回収・再利用することが計画されている貴金属のパラジウムについて、一般環境に持ち出して使用しても問題の無い放射性パラジウムの残留濃度レベル(クリアランスレベル)を試算しました。
今後の装置開発に具体的な目標値を示し、実用化に向けて貢献できたと自負しております。東京電力福島原子力発電所の事故以来、原子力や放射線というと危険なもの、厄介なものというイメージを持たれる方も多いのですが、本研究のような安全に関する研究開発をきちんと実施すれば、エネルギーや医療、様々な産業分野で利・活用でき、有用な資源にもなる技術であることを知っていただければと思います。
概要
高レベル放射性廃棄物には、自動車排ガス触媒などに用いられる有用貴金属元素のパラジウムが含まれています。このパラジウムを再利用するにあたっては、回収した廃棄物の中に、微量の放射性パラジウムが含まれていることが問題でした。
本研究グループは、パラジウムの原料から製品への流れ、利用形態、廃棄の状況といったマテリアルフローを詳細に調査するとともに、人体がパラジウムを取り込む経路と量を推定して、それぞれについて放射線被ばく線量を評価し、それに基づいて放射性物質を一般の生活環境で使用しても問題ない基準量(クリアランスレベル)を試算しました。
本研究の結果、高レベル放射性廃棄物から回収されたパラジウムに含まれる可能性のある放射性パラジウム(107Pd)のクリアランスレベルは、1グラム当たり約3000ベクレルと試算できました。
これまで、⾼レベル放射性廃棄物から回収された元素に対する具体的なクリアランスレベルを提⽰した例はなく、本研究は、放射線管理上の意義があるとともに、パラジウムの資源化・実用化に必要な国際的指針を検討する基盤的データを提供したといえます。また、本研究成果は、9月30日から開催された経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)の専門家会議においても発表されました。
詳しい研究内容について
書誌情報1
【DOI】 https://doi.org/10.1080/00223131.2018.1516580
Sentaro Takahashi, Momoyo Ikeda, Kayoko Iwata, Sota Tanaka, Rui Akayama & Tomoyuki Takahashi (2018). Estimation of the radiation dose of 107Pd in palladium products and preliminary proposal of appropriate clearance level. Journal of Nuclear Science and Technology, 55(12), 1490-1495.
書誌情報2
【DOI】 https://doi.org/10.1080/00223131.2018.1435316
Tomoyuki Takahashi, Kayoko Iwata, Sota Tanaka, Naoki Takashima, Tomoyuki Ikawa & Sentaro Takahashi (2018). Lifecycle of palladium in Japan: for setting clearance levels of 107Pd. Journal of Nuclear Science and Technology, 55(7), 822-827.
- 京都新聞(10月11日 27面)、産経新聞(10月18日 25面)、日刊工業新聞(10月16日 25面)、毎日新聞(10月13日 22面)および読売新聞(1月25日 19面)に掲載されました。