酸化ストレスが顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの 原因遺伝子DUX4を増加させることを発見しました

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櫻井英俊 iPS細胞研究所准教授、本田充 東京大学博士課程学生(iPS細胞研究所)らの研究グループは、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)患者由来のiPS細胞から作製した骨格筋細胞を用いて、骨格筋に毒性をもたらすDUX4の発現を酸化ストレスが増加させていることを見出しました。さらに、ゲノム編集によってそのDUX4発現の増加を抑えることに成功しました。

本研究成果は、2018年8月9日に英国科学誌「Human Molecular Genetics」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、櫻井准教授、本田博士課程学生

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は、比較的患者数が多い疾患にも関わらずその病態はよく分かっていません。それは同一の遺伝子領域がマウスに存在しないため適切な病態モデルが無かったことも一因です。今回私たちはFSHD患者さんのiPS細胞を樹立し、骨格筋細胞に分化させ研究することで、病因となる遺伝子「DUX4」が酸化ストレスによって発現が増加してしまうことを突きとめました。今後この研究成果を治療薬開発に結び付けていきたいと思います。

概要

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は遺伝性の進行性筋ジストロフィーですが、骨格筋に毒性をもたらすDUX4という遺伝子の異常発現が原因と考えられています。DUX4は第4番染色体のテロメア近傍(4q35) のクロマチン構造の変化という細胞内の異常で発現しますが、細胞外の要因でDUX4の発現が変わり得るのかは分かっていませんでした。

本研究グループは、FSHD患者由来のiPS細胞から作製した骨格筋細胞を用いて、酸化ストレスがDUX4の発現を増加させていることを確かめました。さらに、FSHD 由来骨格筋細胞にゲノム編集技術CRISPR/Cas9を使ったゲノム編集を行い、酸化ストレス状況下においてDUX4を抑制させることに成功しました。また、酸化ストレスからDUX4の発現までの機構にDNA損傷応答シグナルが介在していることを突きとめました。

本研究成果は、過運動、筋損傷や炎症などがもたらす酸化ストレスが、FSHDの進行を促進させる外的リスクファクターの1つであることを示唆しています。

図:本研究のイメージ

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/hmg/ddy293

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/234236

Mitsuru Sasaki-Honda, Tatsuya Jonouchi, Meni Arai, Akitsu Hotta, Satomi Mitsuhashi, Ichizo Nishino, Ryoichi Matsuda, Hidetoshi Sakurai (2018). A Patient-derived iPSC Model Revealed Oxidative Stress Increases Facioscapulohumeral Muscular Dystrophy-causative DUX4. Human Molecular Genetics, 27(23), 4024-4035.

  • 産経新聞(8月28日 26面)および毎日新聞(8月29日 27面)に掲載されました。