ライル・デ・スーザ 人文科学研究所・日本学術振興会外国人特別研究員は、日系カナダ人映画製作者へのインタビューと日系カナダ人コミュニティでの参与観察を通して、第二次世界大戦中に強制収容に苦しんだ日系カナダ人が、カナダの多文化主義に対して肯定感と警戒感という両義的な姿勢を取っていることを初めて明らかにしました。
本研究成果は、2018年7月31日に国際学術誌「OMNES:The Journal of Multicultural Society」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究では、歴史の中で日系カナダ人が受けてきた人種差別のトラウマが、「理想的なマイノリティ」の代表と目される彼らに対して、どのように多文化主義政策への両義的な態度を生み出したのかを明らかにしました。
政府が多文化主義を推進する際には、移民のアイデンティティと声、彼らが過去に置かれてきた政治的・社会的状況、そして現在の政治経済を考慮に入れなくてはならないのです。
概要
日系カナダ人はカナダにおいて「模範的マイノリティ」と目されています。そのためこれまでは、マイノリティに「良い」ものとイメージされるカナダの多文化主義と、その理念にかなう日系カナダ人とは、補い合う関係にあると想定されてきました。
しかし、本研究は、日系カナダ人自身が紡ぎだす声と文化アイデンティティを明らかにすることで、こうした想定が安易なものであることを示し、第二次世界大戦中に強制収容に苦しんだ日系カナダ人が、多文化主義に対して肯定感と警戒感という両義的な姿勢を取っていることを明らかにしました。
本研究成果は、政府が多文化主義政策を立てる場合には、移民のアイデンティティと声、過去の政治的・社会的な条件、そして現在の政治・経済を考慮に入れることの重要性を示しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.14431/omnes.2018.07.8.3.1
Lyle De Souza (2018). The Ambivalent Model Minority : Japanese-Canadians and Canadian Multiculturalism. OMNES: The Journal of Multicultural Society, 8(3), 1-29.