岩田想 医学研究科教授(兼・理化学研究所グループディレクター)、南後恵理子 理化学研究所研究員らの研究グループは、光に応答するタンパク質がフェムト秒(1,000兆分の1秒)からピコ秒(1兆分の1秒)という超高速で反応する過程を、X線自由電子レーザー(XFEL)によって、原子の動きまで克明に動画として捉えることに成功しました。
本研究成果は、2018年6月15日に米国の科学雑誌「Science」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究は、理化学研究所播磨研究所にある自由電子レーザーSACLAを用いて実験を行うため、本学のグループを播磨において研究を行っています。今回の成果はスイスのグループと共同で行ったもので、バクテリオロドプシンというタンパク質の中のレチナールという分子が光を吸収するときに起こる形の変化を200フェムト秒(フェムト秒は1000兆分の1秒)から3ピコ秒(ピコ秒は1兆分の1秒)の間の時間で観測することに成功したものです。このレチナールという分子は人間の目において光を感じるセンサーにおいても使われており、我々はその仕組みを解明したいと考えていますが、今回の結果はその目標に到達するための技術的な問題を乗り越えたという点で大きな意味のある成果だと考えています。
概要
ヒトの視覚や微生物のイオン輸送に関わる光応答タンパク質は、光をキャッチするためのレチナールを含んでおり、高効率かつ立体選択的に構造を変化させて機能を発現することが知られています。しかし、その光化学反応はフェムト秒からピコ秒という超高速で起こるため、どのように反応し構造変化を起こすのかを知るのに必要な原子レベルの動きを捉えることは非常に困難でした。
本研究グループは、レチナールを持つ光応答タンパク質(レチナールタンパク質)が、光を照射された後にどのように働くかを原子レベルで動画撮影することに成功し、光化学反応の初期過程におけるメカニズムを解明しました。
また、本研究成果は、ヒトの視覚に関与するロドプシンや光遺伝学に用いられるチャネルロドプシンなど、他のレチナールタンパク質における光化学反応の初期段階を理解する上で重要な知見となります。さらに、本研究で用いられた手法は、光で反応する他の種類のタンパク質の構造変化を捉え、仕組みの解明に貢献すると期待できます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1126/science.aat0094
Przemyslaw Nogly, Tobias Weinert, Daniel James, Sergio Carbajo, Dmitry Ozerov, Antonia Furrer, Dardan Gashi, Veniamin Borin, Petr Skopintsev, Kathrin Jaeger, Karol Nass, Petra Båth, Robert Bosman, Jason Koglin, Matthew Seaberg, Thomas Lane, Demet Kekilli, Steffen Brünle, Tomoyuki Tanaka, Wenting Wu, Christopher Milne, Thomas White, Anton Barty, Uwe Weierstall, Valerie Panneels, Eriko Nango, So Iwata, Mark Hunter, Igor Schapiro, Gebhard Schertler, Richard Neutze, Jörg Standfuss (2018). Retinal isomerization in bacteriorhodopsin captured by a femtosecond x-ray laser. Science, 361(6398):eaat0094.