藤田健一 人間・環境学研究科教授らの研究グループは、エタノール水溶液を原料として用い、新しく開発したイリジウム錯体を触媒として活用することによって、エタノール水溶液から酢酸を合成する触媒系の開発に成功しました。
本研究は、2018年5月28日に、国際学術誌「ChemCatChem」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
酢酸といえば、まずは調味料が思い浮かぶかもしれませんが、工業的利用のほうが断然規模が大きく、応用範囲も広いです。工業利用される酢酸は、現状では一般に石油化学原料から製造されています。将来を見据えると、エタノールのような植物由来の再生可能資源から酢酸を合成する手法を開発することは極めて重要です。さらに本研究では、酢酸に加えて、エネルギー源として有用な水素を同時に生成する反応開発に成功したため、一石二鳥の触媒系となったと考えています。
概要
酢酸は全世界で年間650万トン消費され、合成樹脂・繊維・フィルムそしてペットボトルの製造に欠かせない重要な有機化合物です。現在はメタノールと一酸化炭素との反応によって工業生産されていますが、メタノールは枯渇性の化石資源である天然ガスを主な原料とするため、持続可能性の観点から、植物由来の再生可能資源から得られるエタノールを原料として合成することが望ましいと考えられます。しかし、エタノールから酢酸への変換は環境負荷が非常に大きく、この手法を大スケール化することは困難でした。
本研究グループは、入手が極めて容易で安全なエタノール水溶液を原料として用い、新しく開発したイリジウム錯体を触媒として活用することによって、その課題を解決する新しい触媒系の開発に成功しました。実に興味深いことに、今回開発した新しい触媒系によれば、合成化学的に有用な酢酸を収率99%ときわめて効率的に得られるだけでなく、エネルギー源として利用価値の高い水素を95%という高収率で同時に生産できるという利点もあります。さらに、このイリジウム錯体触媒は、空気や水にも安定で取り扱いやすく、反応後に回収して再利用することも可能です。また、他の第一級アルコールを原料に使えば、対応するカルボン酸の合成もできるため、応用性の非常に高い手法といえます。
図:エタノール水溶液から酢酸を合成するイメージ図
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1002/cctc.201800680
Masato Kuwahara, Masaaki Nishioka, Masato Yoshida, Ken‐ichi Fujita (2018). A Sustainable Method for the Synthesis of Acetic Acid Based on Dehydrogenation of an Ethanol-Water Solution Catalyzed by an Iridium Complex Bearing a Functional Bipyridonate Ligand. ChemCatChem, 10(17), 3636-3640.
- 日刊工業新聞(6月12日 31面)および読売新聞(6月22日 29面)に掲載されました。