東樹宏和 生態学研究センター准教授、山道真人 白眉センター特定助教(現・東京大学講師)、潮雅之 生態学研究センター連携研究員、小野田雄介 農学研究科助教らの研究グループは、5カ国(日本・オランダ・スイス・アメリカ・中国)の機関と共同で、微生物生態系を制御するために重要な「コア共生微生物」を探索する研究手法を開発しました。資源コストが低く、病害虫発生のリスクも低い農業生態系を設計していく上で、新たな科学的戦略を提供する成果です。
本研究成果は、2018年5月1日に国際学術誌「Nature Plants」にオンライン公開されました。
研究者からのコメント
コア共生微生物を用いた技術は、食糧生産だけでなく、生態系の再生においても応用が見込まれます。皆伐地における森林再生や絶滅危惧植物の再導入においては、苗に定着している共生微生物によって、植物の生存が大きく左右されると予想されます。微生物叢動態の観点から農業生態系だけでなく自然生態系を眺めることで、絡み合う環境問題を包括的に解決する糸口が見つかると期待されます。
本研究成果のポイント
- 個々の微生物ではなく、多様な微生物種で構成される微生物叢が全体で植物に与える効果に着目
- 植物の健全な生長を促す微生物叢の中で、鍵となる「コア共生微生物種」を探索するための理論と情報学的手法を構築
- 最小の資源・エネルギーコストによる制御で「土着」微生物叢が秘めた機能を最大化する農業に向けて、植物学・微生物学・ゲノム学・生態学・情報学・ロボット工学を融合する研究戦略を提案
概要
世界人口が2050年に98億人に達すると推計される中、地球温暖化や新規病原生物系統の出現、化学肥料資源の枯渇といった要因が食糧供給を脅かしています。その一方で、近年、農業・医療・工業の幅広い分野において、微生物の機能を最大限に利用してさまざまな課題に取り組む動きが広がっています。しかし、微生物はあまりに種類が豊富で、多様な微生物種で構成される「微生物叢」全体を制御する理論も技術もまだ未発達です 。
本研究グループは、 微生物叢が本来持っている機能を最大限に発揮させる戦略について、持続可能な農業生態系を設計することを最終目標として、新たな科学的戦略を提案しました。特に、植物の健全な生育に貢献する多様な微生物たちを「土着」微生物叢の中から優先的に植物体へとリクルートする「コア共生微生物」に着目し、そうしたコア共生微生物を膨大な候補微生物の中から見出す情報学的手法を開発しました 。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41477-018-0139-4
Hirokazu Toju, Kabir G. Peay, Masato Yamamichi, Kazuhiko Narisawa, Kei Hiruma, Ken Naito, Shinji Fukuda, Masayuki Ushio, Shinji Nakaoka, Yusuke Onoda, Kentaro Yoshida, Klaus Schlaeppi, Yang Bai, Ryo Sugiura, Yasunori Ichihashi, Kiwamu Minamisawa, E. Toby Kiers (2018). Core microbiomes for sustainable agroecosystems. Nature Plants, 4(5), 247-257.