がんを誘発する酵素の新たなタンパク質間相互作用を解明 -抗がん剤の新たなターゲットを発見-

ターゲット
公開日

藤田宏明 医学研究科助教、岩井一宏 同教授、徳永暉 工学研究科博士課程学生、白川昌宏 同教授らの研究グループは、直鎖状ユビキチン鎖を生成する「LUBAC」の安定した複合体の形成に決定的な役割を果たすタンパク質の相互作用を解明し、その相互作用の阻害が、抗がん剤の有効なターゲットになることを明らかにしました。さらに、本研究グループは、この成果を受けて、新規の抗がん剤へとつながる、相互作用を阻害する化合物の開発に着手しています。

本研究は、日本時間 2018 年4月 25 日に国際学術誌「 Cell Reports 」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

左から、藤田助教、岩井教授、徳永博士課程学生、白川教授

LUBAC複合体は新規のタンパク質翻訳後修飾である直鎖状ユビキチン鎖を特異的に生成します。 LUBAC 複合体は、がん細胞でみられるNF-κB活性化亢進、細胞死の抑制に関与します。本研究は、 LUBAC 複合体は構成因子が一つでも欠けると、なぜ不安定化するのだろう?という単純な疑問からスタートした研究でしたが、タンパク質間の新規相互作用様式、またその重要性を見いだすことができ、また抗がん治療に向けた新しい阻害剤の開発を行うことができ、うれしく思っています。

概要

新規のタンパク質翻訳後修飾である直鎖状ユビキチン鎖を生成する「 LUBAC 」は、発がんに関与する転写因子 NF-κB を活性化し、計画的な細胞死を抑制する酵素です。この LUBAC が過剰に活性化すると、悪性リンパ腫の発症や、抗がん剤とがん免疫治療薬への耐性に関与することから、抗がん剤のターゲットと考えられてきました。本研究グループは、この LUBAC の安定した複合体の形成 のカギを握るHOIL-1L/SHARPINの相互作用を阻害することが、新たな抗がん剤のターゲットであることを示すことができました。この成果を踏まえ、本研究グループでは、HOIL-1LとSHARPINとの結合の阻害化合物の開発に着手しています。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.celrep.2018.03.112

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230872

Hiroaki Fujita, Akira Tokunaga, Satoshi Shimizu, Amanda L. Whiting, Francisco Aguilar-Alonso, Kenji Takagi, Erik Walinda, Yoshiteru Sasaki, Taketo Shimokawa, Tsunehiro Mizushima, Izuru Ohki, Mariko Ariyoshi, Hidehito Tochio, Federico Bernal, Masahiro Shirakawa, Kazuhiro Iwai (2018). Cooperative Domain Formation by Homologous Motifs in HOIL-1L and SHARPIN Plays A Crucial Role in LUBAC Stabilization. Cell Reports, 23(4), 1192–1204.

  • 京都新聞(4月25日25面)および日刊工業新聞(4月25日32面)に掲載されました。