セルトリ細胞への遺伝子導入による新規男性不妊治療法の開発  -ヒト不妊治療への応用に期待-

ターゲット
公開日

篠原隆司 医学研究科教授、小倉淳郎 理化学研究所バイオリソースセンター室長、渡邉哲史 医学研究科助教らの研究グループは、きわめて治療が困難だった男性不妊症「セルトリ細胞遺残症候群」について、アデノ随伴ウイルスを用いた精巣への新規遺伝子導入法を開発し、不妊症モデルマウスの精子形成を回復させることに成功しました。

本研究は、2018年4月6日に米国の科学誌「Stem Cell Reports」誌にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

左から篠原教授、渡邉助教

セルトリ細胞の欠陥による男性不妊症について、これまで いく つかの遺伝子治療法が開発されてきました。しかしながら、その後の解析でまだ問題があることが明らかになってきました。今回の新しい手法は手技も簡単であり、かつ危険性も少ないもので、これまでの手法の問題点を克服したものです。十分な動物実験がまだまだ必要ですが、ヒトへの応用も十分に可能性があるものだと思います。

概要

日本において増加している不妊症は、原因の半分が男性側にあり、多くの場合に精子形成異常が見られます。精子形成異常は、精子形成細胞と体細胞であるセルトリ細胞のいずれに欠陥があった場合でも発生します。これまでは減数分裂が終了した成熟細胞の段階で精子形成が停止した場合については治療が可能でしたが、それ以前の分化段階の細胞に異常があった場合には治療法がありませんでした。

本研究グループが開発した手法は、当該ウイルスが感染した細胞のゲノムに遺伝子を挿入せず、炎症反応も起こさない点で先行研究よりも安全性に優れており、 3 ヶ月以上にわたってセルトリ細胞での遺伝子発現が継続するため、ヒトのように精子形成期間が長い場合でも発現の持続が期待できる画期的なものです。今後はヒト男性不妊症の原因遺伝子の特定と、より高い安全性の確保によって、本手法のヒト不妊治療への応用が期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2018.03.005

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230498

Satoshi Watanabe, Mito Kanatsu-Shinohara, Narumi Ogonuki, Shogo Matoba, Atsuo Ogura, Takashi Shinohara (2018). In Vivo Genetic Manipulation of Spermatogonial Stem Cells and Their Microenvironment by Adeno-Associated Viruses. Stem Cell Reports, 10(5), 1551-1564.