湊長博 理事・副学長・プロボストらの研究グループは、慢性骨髄性白血病(CML)を引き起こす原因となる細胞を根絶する免疫メカニズムが、Sipa1と呼ばれる遺伝子が欠乏することによって発動する仕組みを解明しました。CMLの治療への貢献が期待される画期的成果です。
本研究成果は、2018年3月2日午後7時に英国の科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
研究者からのコメント
がん免疫治療の大きな課題は、がん免疫反応が必ずしも体内で有効に機能しないことですが、最近その大きな要因が免疫系の調節機構そのものに内在することがわかってきています。今回の研究は、細胞運動の調節機構(ブレーキ)が特定の白血病に対するがん免疫の発現を拘束しており、このブレーキ分子の機能を解除することによって、免疫反応により完全に白血病の発症を抑制できることをマウスモデルで示したものです。この発見をヒトの白血病治療に応用するために、一時的にこのブレーキ分子の機能を止める薬剤の開発研究をめざして研究を進めています。
概要
PD-1抗体(オプジーボ)による新しいがん免疫療法は、がん治療に画期的な進展をもたらしました。これは免疫システムが元々持っている調節(ブレーキ)機構を一旦解除することによって、がん細胞に対する潜在的な免疫反応を最大限効果的に発現させるものです。
本研究グループは、全く新しいタイプの細胞機能の調節機構を解除することによって、白血病細胞に対して非常に効果的な免疫反応が起こり完全治癒に至ることを、動物モデルで発見しました。CMLは染色体の転座によってできるがん遺伝子(Bcr-Abl)を原因とするヒトの代表的な白血病で、Bcr-Abl遺伝子を発現させた造血幹細胞を正常マウスに注射すると、CMLを発症して全例死亡します。しかし意外なことに、Sipa1という遺伝子を欠失させたマウスは全く病気を発症せず、全例元気に生存することがわかりました。Sipa1は以前本研究グループが発見した細胞の「動き(移動)」を制御する分子です。正常マウスでは、免疫T細胞が白血病組織の近くにまでは来ますが、その内部にまで入り込むことができません。他方Sipa1欠失マウスでは、免疫T細胞が白血病組織の奥深くまで入り込んでいることがわかりました。組織の繊維芽細胞がまず白血病細胞の近くに移動してケモカインと呼ばれる細胞遊走因子を分泌、これを手がかりにエフェクターT細胞が白血病組織の内部に速やかに遊走して、直接白血病細胞を攻撃できると考えられます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-018-03307-8
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229514
Yan Xu, Satoshi Ikeda, Kentaro Sumida, Ryusuke Yamamoto, Hiroki Tanaka & Nagahiro Minato (2018). Sipa1 deficiency unleashes a host-immune mechanism eradicating chronic myelogenous leukemia-initiating cells. Nature Communications, 9, 914.
- 朝日新聞(3月3日 33面)、京都新聞(3月3日 28面)、産経新聞(3月3日 30面)、日刊工業新聞(3月3日 19面)、毎日新聞(3月3日 29面)および読売新聞(3月3日夕刊 8面)に掲載されました。