古川壽亮 医学研究科教授、小川雄右 同助教、Andrea Cipriani オックスフォード大学准教授らの研究グループは、これまで行われてきた第一、第二世代の抗うつ剤同士で効き目と副作用を直接比較した522の臨床試験結果を集め、統計的に処理することで、21種の薬剤の特徴を網羅的に比較・評価しました。その結果、アミトリプチリンやエスシタロプラムなど8種の抗うつ剤は特に効果が強いこと、エスシタロプラムを含む6種の薬剤は比較的副作用が起こりづらいことが分かりました。医師の個人的な経験や印象だけではなく根拠に基づいた投薬治療を進めていく上で重要な参照情報になると考えられます。
本研究成果は、2018年2月22日午前8時30分にエルゼビア社の医学誌「The Lancet」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
今回の結果は根拠に基づいた治療戦略を立てる上で患者さんと精神科医双方にとって重要なものといえます。うつ病治療のガイドラインや医療政策を策定する際にも参照すべきでしょう。
この研究で取り扱ったのは第一・第二世代の抗うつ剤でしたが、今後開発される薬剤についても、引き続き同様のエビデンスを積み重ねていく必要があると考えています。
概要
うつ病を生涯に経験する人は全世界人口のうち3%~16%との調査もあり、多くの人が現在も治療に取り組んでいる疾患です。WHOの推計では、人類が健康を損なう最も大きな原因の一つとされています。薬剤を用いた治療の他、物事に対しての考え方に加えどのような行動を起こすかコントロールを試みる認知行動療法などの選択肢も出てきていますが、人的・金銭的コストの都合上抗うつ薬による治療が行われるのが一般的です。
これまで多くの抗うつ薬が開発・実用化されてきました。もちろん全て臨床試験を経て市販されているものの、数十種に渡る薬剤を直接比較した試験は行われていません。そのため、どの抗うつ薬にどの程度効果が見込めるのか、副作用がどの程度出やすいのか、網羅的に確かめた例はありませんでした。
本研究グループは、世界各地で行われてきた抗うつ剤のランダム化比較試験で二重盲検化されている研究結果を収集、統合しました。出版されていないものも含め、2016年1月8日までに報告された522件、延べ116,477人の試験結果が含まれています。大人を対象としており、第一、第二世代の抗うつ薬21種と偽薬の効果を直接比較した試験を選びました。集めた試験結果の正確性や被験者の症状、人数の違いを吟味しつつ、抗うつ剤の効果と副作用で投薬を中止した割合を比較しました。
解析の結果、今回対象とした21種の薬剤は全て偽薬よりも効果があることを確認しました。しかし幅があり、効果の現れやすさを表すオッズ比では最も効果が期待できるアミトリプチリンが2.13なのに対し、レボキセチンでは1.38に留まりました。また、試験中に副作用で投薬を中止する割合も同様に薬剤同士で差が見られました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/S0140-6736(17)32802-7
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229343
Andrea Cipriani, Toshi A Furukawa, Georgia Salanti, Anna Chaimani, Lauren Z Atkinson, Yusuke Ogawa, Stefan Leucht, Henricus G Ruhe, Erick H Turner, Julian P T Higgins, Matthias Egger, Nozomi Takeshima, Yu Hayasaka, Hissei Imai, Kiyomi Shinohara, Aran Tajika, John P A Ioannidis, John R Geddes (2018). Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. The Lancet, 391(10128), 1357-1366.