高分子のらせん構造を自在にあやつる -溶媒が支配する右巻き/左巻き構造形成の仕組みを解明-

ターゲット
公開日

長田裕也 工学研究科助教、杉野目道紀 同教授、杉山正明 原子炉実験所教授らの研究グループは、東京大学、フランス・ラウエ・ランジュバン研究所と共同で、中性子小角散乱実験と計算科学的手法を組み合わせることで、高分子のらせん構造の右巻き、左巻き構造が溶媒によって自在に変化するという現象の原理解明に成功しました。

本研究成果は、2018年2月15日午後2時にアメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版で公開されました。

研究者からのコメント

左から、杉山教授、杉野目教授、長田助教

本研究で解明した「溶媒によるらせん構造反転に関する原理」に基づいて、 らせん反転型高分子の合理的設計指針を得ることができました。 本原理を利用した不斉触媒を活用することで、光学活性医薬品等の 革新的な製造プロセスへの応用が期待されるとともに、 円偏光スイッチング型液晶や刺激応答型円偏光発光材料等の 新たな機能性材料の創出に繋がるものと期待しています。

概要

夜空に浮かぶ天体や、様々な建築物、貝殻や植物のつるに至るまで、らせん構造は最も広く存在する規則構造です。さらに小さな領域に目をやると、生体内に存在するDNAやタンパク質といった生体高分子にもらせん構造は数多く存在し、遺伝情報の記録や複製、生体内での酵素反応など様々な機能を発現するために重要な役割を果たしています。一般にこれら生体高分子のらせん構造は、左巻きあるいは右巻きのどちらかに定まっています。たとえば、DNAの二重らせん構造や、タンパク質を構成するαヘリックス構造は右巻き構造をとっており、右巻き左巻きが入れ替わることはほとんどありません。一方で合成繊維やプラスチックに代表される合成高分子では、溶解させる溶媒の種類によってらせん構造が右巻き/左巻きと反転する場合があることが明らかにされつつあります。しかし溶媒の種類によって、なぜらせん構造が反転するのかという原理については全く明らかになっておらず、新たな機能性材料開発に向けて大きな課題となっていました。

本研究グループは、世界で最も鋭敏にらせん反転を示すポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)という高分子を対象として選び、中性子ビームを用いてその散乱パターンを測定する中性子小角散乱という手法と計算科学的手法を組み合わせて解析しました。その結果、高分子の側鎖が主鎖に沿ってコンパクトに縮まっている場合には左巻き構造をとり、溶媒と側鎖の相互作用によって大きく広がった場合には右巻き構造をとることを初めて明らかにしました。この原理を用いることで、高分子の左右らせん構造を、溶媒のような外部の環境によって自在にあやつることが可能となりました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.7b11626

Yuuya Nagata, Tsuyoshi Nishikawa, Michinori Suginome, Sota Sato, Masaaki Sugiyama, Lionel Porcar, Anne Martel, Rintaro Inoue, and Nobuhiro Sato (2018). Elucidating the Solvent Effect on the Switch of the Helicity of Poly(quinoxaline-2,3-diyl)s: A Conformational Analysis by Small-Angle Neutron Scattering. Journal of the American Chemical Society, 140(8), 2722-2726.

  • 京都新聞(2月21日 25面)および日刊工業新聞(2月16日 27面)に掲載されました。