潮雅之 生態学研究センター研究員、 益田玲爾 フィールド科学教育研究センター准教授、近藤倫生 龍谷大学教授らの国際研究グループ(日本・台湾・アメリカ)は、京都府舞鶴湾での過去12年間に及ぶ魚類とクラゲを含む15種の生物の個体数変動データを解析することで、種間の関係性が時間によって変動する様子を詳細に捉えることに成功しました。また、これに基づいて、種間の関係性と種多様性が生態系安定化の鍵であることを突き止めました。
本研究成果は、2018年2月8日午前3時に英国の科学雑誌「Nature」で公開されました。
研究者からのコメント
本研究で提案したデータ解析の枠組みは様々な野外生態系で生物個体数の変動予測やそのメカニズムの理解に貢献できます。また、地球上の様々な生態系から得られた時系列データに適用することで生物の個体数変動の一般則が見えてくるかもしれません。さらに、長期生態系観測はすぐには評価されにくい地道な仕事ですが、今回の研究ではそこから得られたデータが中心的な役割を果たしており、継続的な生態系観測やそのサポートの重要性も示せたと思います。
本研究成果のポイント
- 非線形力学理論を利用して開発した新しい数理的データ解析手法により、舞鶴湾での過去12年間の生物個体数変動データを分析
- 15種の生物の間に働く複雑な関係性(目には見えない力)が刻々と時間変化する様子を捉えることに成功
- 生態系の安定化には、出現する生物種が多いことや、種間に及ぼし合う影響が緩やかになることが大きな役割を果たしていることを新たに発見
- 生態系観測によって「自然のバランス」の変化を捉える新技術の開発に繋がる期待
概要
野外の生態系における生物種間には、ある生物種の個体数が増減すると他の生物の個体数もその影響を受けて増減する、種間相互作用と呼ばれる力が働いていると考えられています。また、多様な生物種が相互作用する生物群集にはその動態を安定化させる仕組みが備わっており、環境が多少変化しても想定外の大変動や破綻が生じにくくなっているのではないかと考えられてきました。しかし、野外において種間相互作用(=種間に働く力)を観察したり、個体数変動の安定性を測ったりすることはいずれも困難なため、多種の間に働く非常に多くの種間相互作用を詳細に描き出し、それが生物群集の安定性に及ぼす影響を野外で検証した研究は過去に例がありませんでした。
本研究グループは、舞鶴湾で12年間に渡って続けられた潜水調査データを、新しく開発した数理的手法で分析しました。その結果、湾内に生息する主要な15種の生物(14種の魚とクラゲ)の間に働く相互作用を捉えることに成功しました。さらに、舞鶴湾の魚類群集は夏季に安定になり、冬季に不安定になるという季節変動を示すこと、舞鶴湾の魚類群集は、魚種の種類が多くなり、種間相互作用が弱められることで安定になることを突き止めました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/nature25504
Masayuki Ushio, Chih-hao Hsieh, Reiji Masuda, Ethan R Deyle, Hao Ye, Chun-Wei Chang, George Sugihara & Michio Kondoh (2018). Fluctuating interaction network and time-varying stability of a natural fish community. Nature, 554(7692), 360-363.
- 朝日新聞(3月22日 25面)、京都新聞(2月8日 22面)、産経新聞(2月8日夕刊 8面)、毎日新聞(2月13日 26面)および科学新聞(2月16日 2面)に掲載されました。