脊髄損傷後に指の器用さ回復、サルで抗体治療に成功

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中川浩 霊長類研究所研究員(現・University College London研究員)、高田昌彦 同教授、山下俊英 大阪大学教授らの研究グループは、サルを用いて脊髄損傷により傷ついた神経の再生を促し、一度失われた霊長類の手指機能を回復促進させる抗体治療に成功しました。これまで、成熟した中枢神経においてひとたび損傷した神経が再生し繋がることは難しいとされていました。この成果は、脊髄損傷や脳卒中などの中枢神経障害後の運動機能回復の治療につながると期待されます。

本研究成果は、2018年1月5日午後7時に英国の雑誌「Cerebral Cortex」で公開されました。

研究者からのコメント

高田教授

本研究成果は、今後、運動機能回復を促進させる治療手段や運動機能回復に伴う職業・社会復帰向上の一助となることが大いに期待されます。

概要

脊髄には脳と手足の筋肉とをつなぐ神経線維があり、大脳からの運動指令を手足に伝えています。交通事故、スポーツ事故や転落などにより脊髄が傷ついてしまうと脳からの指令が適切に筋肉に運ばれなくなり、手足に麻痺症状が出現します。この状態がいわゆる脊髄損傷です。中枢神経障害後の運動機能回復の中でも手指運動機能の再建は極めて難しく、日常生活レベルで必要とされる手指の器用さは再獲得が厳しいのが現状でした。

これまでの研究で霊長類では脊髄損傷後も時間が経つとある程度の手指運動機能回復がみられること、更にわずかながら一度損傷を受けた神経軸索から軸索枝が損傷部位を越えて伸長・分岐するという現象が確認されています。また、げっ歯類を用いた研究でも中枢神経が再生しにくい原因が少しずつ明らかにされてきましたが、未だ有効な治療法の確立には至っていませんでした。更にヒトに応用するには種ごとの神経回路構造の違いについても考慮する必要があります。

本研究グループは、神経軸索の再生を効果的に高めることができれば運動機能の回復を促進させることができるのはないかと考えました。そこでヒトと類似した神経回路構造をもつ霊長類を対象として、脊髄損傷後の運動機能回復を促進させる抗体治療に取り組みました。

その結果、霊長類において脊髄損傷後のRGMa(神経軸索の誘導、細胞接着、細胞遊走など神経発達や神経回路形成に重要な役割を担うタンパク質)抗体治療が、神経軸索の再生力および運動機能の回復を促進させる有用な手段の一つであることが分かりました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1093/cercor/bhx338

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228892

Hiroshi Nakagawa, Taihei Ninomiya, Toshihide Yamashita, Masahiko Takada (2018). Treatment With the Neutralizing Antibody Against Repulsive Guidance Molecule-a Promotes Recovery From Impaired Manual Dexterity in a Primate Model of Spinal Cord Injury. Cerebral Cortex, 29(2), 561-572.

  • 朝日新聞(1月7日 3面)、京都新聞(1月6日 24面)、産経新聞(1月6日 27面)、日刊工業新聞(1月8日 14面)、日本経済新聞(1月6日 34面)および毎日新聞(1月17日 27面)に掲載されました。