アセム・エルアラビ 工学研究科博士課程学生、掛谷一弘 同准教授、辻本学 筑波大学助教らの研究グループは、高温超伝導体を用いた超伝導テラヘルツ光源デバイスから、最大99.7%の円偏光(電磁波に含まれる複数の波のピークがずれており、片方の波がプラスからマイナスに移る際に別の波がピークを迎える状態)度をもつテラヘルツ電磁波の発生に成功しました。これは、単独の光源から発生されたテラヘルツ波としては最高の円偏光度です。
本研究成果は、2017年12月29日にアメリカ物理学会発行の「Physical Review Applied」誌に掲載されました。
研究者からのコメント
概要
テラヘルツ帯(テラは10の12乗)の電磁波は、高速無線通信、空港でのセキュリティー検査、ガン部位の識別、封筒内の薬物検知、宇宙観測など幅広い分野への応用が実現・期待されています。テラヘルツ波を連続して発振する光源として、高温超伝導体のナノ構造を利用したものが2007年に発明されました。それ以降、この光源の実用化をめざし、精力的な研究が世界中で行われています。円偏光テラヘルツ波は、超高密度移動体通信に必須なだけでなく、光学異性体の透過率が電界の回転方向によって異なるため、物質にダメージを与えることなくこれらを区別することができるので、医薬品の識別・組織の診断などに応用できます。また、コガネムシのように、回転方向により異なる反射率を持つ物体の識別にも有用です。これまで、単独で円偏光テラヘルツ波を連続して発振できるデバイスは得られておらず、上記技術の実現への障害となっていました。
本研究グループは、正方形の対角を切り取った形状の超伝導テラヘルツ光源を作製し、電磁波の電界が回転する円偏光特性をもつテラヘルツ波の放射に成功しました。発生させたテラヘルツ波が特定の方向に偏った電界を持たないことを、テラヘルツ波の偏光測定から明らかにしました。測定された発振周波数の0.4テラヘルツは、円偏光放射が予測される値と一致します。通信および化学分析に重要な電界の回転方向についても、国立研究開発法人産業技術研究所のグループから先行して発表された理論計算との比較から提案しました。
複雑な調整を必要とする従来のテラヘルツ光源と異なり、超伝導テラヘルツ光源は物質本来の結晶構造を基盤としたシンプルかつモノリシック(1枚板の)な構造のため、耐久性・量産性に強みをもちます。また、動作温度の上限は市販の極低温冷凍機で容易に到達できる80ケルビン(マイナス190℃)程度のため、ポータブル応用も提案されています。
図:今回開発した光源の顕微鏡写真。白く伸びた電極の一方に電流を加えると円偏光テラヘルツ波が放射される。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.8.064034
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232642
A. Elarabi, Y. Yoshioka, M. Tsujimoto, and I. Kakeya.(2017). Monolithic Superconducting Emitter of Tunable Circularly Polarized Terahertz Radiation. Physical Review Applied, 8(6), 064034.
- 京都新聞(1月31日 26面)および日刊工業新聞(12月21日 25面)に掲載されました。