明和政子 教育学研究科教授、河井昌彦 医学部附属病院教授、新屋裕太 教育学研究科博士課程学生(現・東京大学特任研究員)、今福理博 同特定助教(現・東京大学特別研究員)らの研究グループは、出生予定日に達した早期産児(以下、早産児)と出生後まもない満期産新生児の自発的な泣き声の特性を調べました。その結果、在胎32~37週未満で出生した早産児は満期産児よりも周産期の泣き声のメロディーのバリエーションが大きく、このような特性を持つ児は1歳半時点の言語・認知発達が良好、という新たな事実を発見しました。これは発達早期の泣き声のバリエーションが乳児期の言語学習発達を予測する可能性を示すものであり、早産児の周産期からの発達評価や支援の進展に大きく寄与すると期待できます。
本研究成果は、2017年12月23日午前0時にスイスの学術誌「Frontiers in Psychology」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究に快くご協力くださったあかちゃん、親御さん、医療看護スタッフの皆さまにあらためて感謝申し上げます。現代日本では、総出生数の減少に歯止めがかかりません。一方で、早産児・低出生体重児の出生割合は増加の一途をたどっています。科学的根拠にもとづく早期からの発達評価、診断、支援法の開発が今こそ必要です。基礎研究による検証を積み重ねることで、次世代を支えていきたいと思います。
概要
乳児の「泣き声」は、すでに新生児期から豊かなメロディーの特性(ピッチの時間変動)を示すことが報告されています。生後、泣き声のメロディーのバリエーションが増加していくことは、言語を学習する上で重要であることが指摘されてきました。
早産児の泣き声については、出産予定日の時期に満期産児に比べてピッチが高いことが本研究グループにより明らかとなっています。しかし、早産での出生経験が周産期の泣き声のメロディー特性にどのような影響を与えるのか、この時期の泣き声の特性が乳児期以降の言語・認知発達とどのように関係するのか、については分かっていませんでした。
本研究グループは、予定日まで成長した早産児77名(うち36名は在胎32週未満で出生、41名は32~37週未満で出生)と生後1週間前後の満期産新生児30名を対象に、授乳前の自発的な泣き声をICレコーダーで収集し、音響解析を行いました。泣き声の分析は、メロディーの特性(ピッチの変動、メロディーの複雑さ)に注目して評価しました。その後、それぞれの児が1歳半に達した時点で言語や認知発達の評価を行い、泣き声の特性との関連を調べました。
その結果、(1)予定日前後の時点では、在胎32~37週未満で出生した早産児の泣き声は、満期産新生児に比べてピッチの変動が大きく、メロディー複雑さの度合いも高い、(2)周産期の泣き声のピッチの高さ自体は、1歳半時点の言語・認知発達と関係しない、(3)周産期の泣き声のピッチの変動が大きい児ほど、1歳半時点で言語・認知発達が早く、特に発話できる語彙数が多い、ということが明らかになりました。
図左の青線は60秒間に生じた泣き声のメロディー(ピッチの時間変化)を示し、赤い矢印はピッチの変動の大きさを示す。図右は、周産期の泣き声と1歳半時点の言語発達の関連
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.02195
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228298
Yuta Shinya, Masahiko Kawai, Fusako Niwa, Masahiro Imafuku and Masako Myowa (2017). Fundamental Frequency Variation of Neonatal Spontaneous Crying Predicts Language Acquisition in Preterm and Term Infants. Frontiers in Psychology, 8:2195.
- 京都新聞(12月23日 30面)、産経新聞(12月23日 3面)、中日新聞(12月23日 33面)および読売新聞(12月24日 31面)に掲載されました。