山子茂 化学研究所教授、梶弘典 同教授らの研究グループは、炭素原子と水素原子6つずつが互いに結合し、正六角形を成した「ベンゼン環」をリング状につなげた「炭素ナノリング」の大量合成に成功しました。また、この「炭素ナノリング」の薄膜が、スムーズに電子を流す性質を持つことも発見しました。現在、有機半導体材料を用いた太陽電池である有機薄膜太陽電池などでは、電子を受け取る化合物にフラーレン誘導体が用いられていますが、今回合成した「炭素ナノリング」は同じくらい電子を流すため、有機ナノエレクトロニクスの材料として有望だと考えられます。
本研究成果は、2017年11月29日に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に公開されました。
研究者からのコメント
今回の合成法はこれまでになく大量の「炭素ナノリング」を作れるため、材料科学分野での波及効果が高い物質供給法です。さらに、様々な誘導体の合成も行える汎用性の高い方法であるため、分子設計に基づく物性制御や機能向上が可能になると期待されます。本研究により、「炭素ナノリング」を材料科学へと展開する突破口が開けました。今後、デバイス作製と評価によって得られた知見を、「炭素ナノリング」の分子設計にフィードバックしていくことにより、新しい有機電子材料の創製が可能になると期待されます。
概要
ベンゼン環をリング状につなげたシクロパラフェニレン(以下、CPP)を代表とする「炭素ナノリング」は、カーボンナノチューブやフラーレンの最小構成単位であり、次世代の有機電子材料として興味が集まっています。ここ数年で本研究グループをはじめとする世界中での活発な研究により、「炭素ナノリング」の化学合成やその物性解明が飛躍的に進んだこともあり、材料科学への展開には大きな期待が寄せられています。しかし、大量合成が困難なため有機デバイス材料として応用したとの報告はありませんでした。
本研究グループは、独自の合成手法を用いることで、市販の試薬から比較的簡便に10個のベンゼン環からなるCPPとその誘導体(CPP上の一部の水素原子を官能基で置換したもの)をグラム単位で合成することに成功しました。さらに、得られた化合物は有機溶媒によく溶けるため、これまで困難であった「炭素ナノリング」の非晶薄膜およびデバイス作製が初めて可能となりました。薄膜の性質を測定したところ、有機薄膜太陽電池の電子を受け取る化合物として用いられているフラーレン誘導体と同じくらい電子を流すことが明らかになりました。「炭素ナノリング」はフラーレン類に比べて自由な分子設計が可能という利点もあります。今回の結果は、有機ナノエレクトロニクス分野をはじめとする材料開発に大きな波及効果を与えると期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.7b11526
Eiichi Kayahara, Liansheng Sun, Hiroaki Onishi, Katsuaki Suzuki, Tatsuya Fukushima, Ayaka Sawada, Hironori Kaji, and Shigeru Yamago (2017). Gram-Scale Syntheses and Conductivities of [10]Cycloparaphenylene and Its Tetraalkoxy Derivatives. Journal of the American Chemical Society, 139(51), 18480-18483.
- 読売新聞(1月12日 17面)に掲載されました。