松沢哲郎 高等研究院副院長・特別教授、Christopher Flynn Martin 米国・インディアナポリス動物園研究員、Dora Biro オックスフォード大学准教授らの研究グループは、2人で連続的に協力しなければ解決できない課題を考案し、チンパンジー2人が解決できるか観察することで、チンパンジーが役割交代をしながら連続的な協力行動をとることを、世界で初めて実証しました。
本研究成果は、2017年11月1日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究はヒト以外の動物の協力行動・協応行動を研究する新しいパラダイムを作ったといえ、役割交代の進化を考えるうえで貴重な知見をもたらしました。コミュニケーションや言語といった、広くいえば社会的なインタラクションの背後には、必ず役割交代や話者交代があります。そうした役割交代の進化を考えるうえで、母と子を題材にした貴重な知見だといえます。
概要
人間以外の霊長類を対象としたこれまでの研究では、2個体が協力して課題を解決できることがさまざまな場面で実証されてきましたが、ほとんどの例は1回きりの動作でした(例えば、2個体が同時にひもをひっぱって遠くの台を引き寄せて食物を手に入れるなど)。それに対して、1回だけでなく何回も連続して、互いに役割交代しながら、息をあわせて解決する能力についてはこれまでほとんど研究がありませんでした。
今回の研究には、すでに数字を小さい方から順に選ぶことを習得しているチンパンジーが参加しました。2人のチンパンジーに1つのコンピューターを与え、その画面全体に、一連の数字(例えば1~8)をランダムに散りばめて表示します。課題は、この数字を小さい数字から順番に最大の数字までタッチしていくというものです。ただし、画面前に座る2人のチンパンジーの間には透明な障壁があり、右のチンパンジーは画面右半分に表示される数字のみ、左のチンパンジーは画面左半分に表示される数字のみに触れることができます。
例えば画面左半分に「1、5、7、8」、右半分に「2、3、4、6」の数字を表示します。まず左のチンパンジーが「1」をタッチすると、続けて右のチンパンジーが「2、3、4」をタッチし、するとすぐ左のチンパンジーが「5」をタッチするというように、交互に役割交代をしながら、協力して一連の数字を順番に選択していくことができました。
今回はチンパンジーの2個体を1組として、3組でこれを検証しました。いずれも母とその子どもというペアです。興味深いことに、母を真似するように子どもが対応する流れが顕著で、社会性の「母から子へ」という学習の形が見られました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-14393-x
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227753
Christopher Flynn Martin, Dora Biro & Tetsuro Matsuzawa (2017). Chimpanzees spontaneously take turns in a shared serial ordering task. Scientific Reports, 7, 14307.
- 朝日新聞(11月2日 35面)、京都新聞(11月2日 25面)、産経新聞(11月2日 2面)、中日新聞(11月2日夕刊 10面)、日刊工業新聞(11月6日 17面)、日本経済新聞(11月2日 46面)、毎日新聞(11月2日 27面)、読売新聞(11月2日 2面)に掲載およびNHK(11月1日、2日)、毎日放送(11月1日)、TBS(11月2日)、読売テレビ(11月2日)で放送されました。