山本隆文 工学研究科助教、陰山洋 同教授、川上隆輝 日本大学准教授、John E. McGrady オックスフォード大学教授、Michael A. Hayward 同教授らの研究グループは、負の電荷をもつ水素が極めて圧縮されやすく、金属原子間の相互作用を対称性の違いでブロックすることを明らかにしました。
本研究成果は、2017年10月31日付けで英国の学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
研究者からのコメント
来るべき水素社会に向けて、負の電荷をもつ水素イオンヒドリドを含む化合物、特にヒドリドを含む酸化物が近年続々と報告されてきています。最近ではヒドリドを含む酸化物を新しい電池材料として利用しようとする試みなど実用的な観点からも研究が進んできています。今回得られた結果は、ヒドリドを利用することによって、厚い大きなセパレーターを使わなくても、原子レベルで電子状態の次元性を制御できることを示しています。電子状態は物質の機能に直結することから、電子状態を自在に制御することは高度な機能を持つ磁気・電子材料を得る上で必要不可欠な要素です。今回得られた新しい戦略を用いて今後、ヒドリドを含んだ様々な材料が開発されることが期待されます。
概要
水素は通常、正に帯電したイオン(プロトン:H + )として存在しています。しかし、近年になって負の電荷をもつ水素イオン(ヒドリド:H – )を含む酸化物が次々に報告され、水素の貯蔵・取り出しや利活用にブレイクスルーをもたらす材料の候補として期待を集めています。ヒドリドは個体の中でイオンを拡散させる能力が高く、電池の材料としても注目されていますが、現状ではその基本的な性質がほとんどわかっていないため、この材料に関わる研究は暗中模索の状態でした。
本研究グループは、ヒドリドを含む層状の酸化物SrVO 2 H(Sr:ストロンチウム、V:バナジウム、O:酸素、H:水素)に圧力を加える実験によって、ヒドリドが極めて圧縮されやすく、層間の金属原子間の相互作用をブロックするという性質をもつことを発見しました。これらの結果は、ヒドリドを利用することによって、厚いセパレーターを使わなくても二次元的な特性が出せることを示しています。この新しい設計戦略を用いて今後、ヒドリドを含んだ様々な磁気・電子材料が開発されることが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-01301-0
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227748
Takafumi Yamamoto, Dihao Zeng, Takateru Kawakami, Vaida Arcisauskaite, Kanami Yata, Midori Amano Patino, Nana Izumo, John E. McGrady, Hiroshi Kageyama & Michael A. Hayward (2017). The role of π-blocking hydride ligands in a pressure-induced insulator-to-metal phase transition in SrVO2H. Nature Communications, 8:1217.
- 京都新聞(11月7日 27面)、産経新聞(11月22日 23面)および日刊工業新聞(11月1日 21面)に掲載されました。