齊藤尚平 理学研究科准教授、羽田真毅 岡山大学助教、林靖彦 同教授、重田育照 筑波大学教授、恩田健 九州大学教授らの研究グループは、ディスプレイなど非常に広く産業利用されている液晶分子(液体と固体の中間の状態にある液晶状態を呈する分子)について、これまでの概念を覆す新しい計測・解析手法を用いて、液晶分子に紫外線光を当て分子が動く様子を直接的に構造解析することに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、2017年10月16日に米国化学会雑誌「Journal of the American Chemical Society」誌で公開されました。
研究者からのコメント
本研究では、光応答液晶の高速な構造変化を直接的に構造解析することに挑戦しました。実験と理論の両面から相補的にデータ解析を行うことで、初めて光応答液晶の構造解析を実践することができました。構造がわからなければ機能材料の性能を向上させるための設計指針は得られません。本研究の構造解析手法は将来の光機能材料の設計に活かすことができ、今後は液晶に限らず光に応答する高分子材料やゲル、生体組織などの構造解析へと応用展開が期待できます。
概要
これまで、液晶分子の立体構造を決定し、その機能の元となる分子運動を理解することで、より高精度かつ広範囲な液晶材料の開発が可能になると期待されていました。しかし、液晶中の炭素鎖に埋もれた分子骨格の高速な動的挙動を直接的に構造解析する手法は全く存在せず、液晶分子の運動を解析する新しい手法の確立が求められてきました。
本研究グループは、光照射によって生じる瞬間的な分子の周期構造の変化を直接的に観測できる時間分解電子線回折法と、分子構造の変化をその分子振動から観測する時間分解赤外分光法を組み合わせ、液晶分子の構造解析と動的挙動の直接観察を行いました。また、光照射後1~100ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)程度の時間スケールにおいて発現する励起状態芳香族性(ベンゼンなど安定な芳香族化合物の特徴的な物理的・化学的性質を、光照射によって示すこと)に基づく構造変化を観測し、理論計算でその妥当性を確認しました。本研究成果は、液晶分子を基にした光機能性分子材料の設計方針に重要な知見を与えるものになります。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.7b08021
Masaki Hada, Shohei Saito, Sei'ichi Tanaka, Ryuma Sato, Masahiko Yoshimura, Kazuhiro Mouri, Kyohei Matsuo, Shigehiro Yamaguchi, Mitsuo Hara, Yasuhiko Hayashi, Fynn Röhricht, Rainer Herges, Yasuteru Shigeta, Ken Onda, and R. J. Dwayne Miller (2017). Structural Monitoring of the Onset of Excited-State Aromaticity in a Liquid Crystal Phase. Journal of the American Chemical Society, 139(44), 15792-15800.